いつもと変わらない朝でした。
いつものように仕込みをして、いつものようにランチの営業が始まりました。
ただ一つ違うのは、僕がストーブ(ガスレンジ)の前に立って、
みんなに指示を出さなければいけないことでした。
当たり前ですが、フランス語で。
僕の下手なフランス語でです。
でも、やると決めたら、下手なフランス語であろうが、
発音がおかしかろうが、
声を張り上げて精一杯叫びました。
「鳩より先に仔牛だ!仔牛を用意しろ!違う、このソースじゃない、こっちを火にかけろ!
塩が足りない、もっとしっかり塩をして!」
途中で何を言ってるのかわからなくなったり、
一瞬、頭が真っ白になったりも...
ディディエはパティシエルームからいつも僕の様子を伺って、
僕が伝え切れなかったことをうまくフォローしてくれました。
そして、誰一人、僕のおかしな発音のフランス語を笑う者はいませんでした。
みんなが協力してくれて、無事スーシェフ初日が終わろうとしていました。
そのときの最後の料理は「仔鳩のロースト、サルミソース」でした。
今でも覚えています。
メインの料理をすべて出し終えると、僕はすぐにパティシエルームへ向かい、
ディディエの手伝いをしました。
助けてくれた恩返しというわけではないのですが、
僕もデザートを勉強したかったので、出来る限り彼の手伝いをしました。
こうして、
次の日も、その次の日も、
みんなに助けられて僕は前へ前へ進むことが出来たのです。
僕に能力があったのではなく、
みんなが僕を信じてくれたからこそ、
お客様に最高の料理を提供し続けることが出来たんだなぁと、つくづく思います。
僕は、フランスでの仕事が楽しくて仕方がありませんでした。
いつか日本へは帰ることを決心していましたが、
そのときは楽しくて仕方がありませんでした。
僕は確実に、一流というものに向かって前進している実感がありました。
それには、反面、もう後には戻れないというプレッシャーもありました。
その後、日本に帰国する時がきますが、
フランス帰りという重いプレッシャーを背負って帰らなければなりません。
フランス帰りとは、
当然、フランス料理を、フランスの一流シェフと同じように作れる料理人であるはず、
ということです。
腕のいい料理人でなければいけないのです。
それでいて当たり前だと思われるということです。
その時、僕はそこまで気がついていませんでした。
つづく
*この記事は、僕の修行時代のことを書いています。
そこにはいつもにこやかな美人のマダムがお客様を出迎えてくれます。
その後ろに待合室があり、さらに奥に事務所を兼ねたシェフの部屋があります。
SUSIをまかないで作った翌日、僕はシェフの部屋を訪れました。
「シェフ、すいません。この前いただいた、5年間の契約はお断りします。
もうしばらくフランスで勉強したら日本へ帰ろうと思います。」
僕は自分の決心を話しました。
せっかく、僕を認めてくれている、シェフの申し出を断るのが申し訳なく、
僕はシェフの目を見続けることが出来ませんでした。
思わず下を向いてしまいました。
「そうか...。わかったよ、トモ。」
「でも、もうしばらくはここにいてくれるんだろ?」
シェフは一瞬悲しそうな目をしましたが、
僕の目をしっかり見ていました。
「今週一杯でスーシェフのミカエルが辞めるから、
来週からはトモがミカエルの代わりを務めてくれ。」
「えっ...! もちろんです。ありがとうございます。」
それでも、シェフは僕にスーシェフのチャンスをくれました。
2年前、僕がフランスへ来たときには考えられないことでした。
ただ呆然と厨房の隅に立って、何も出来ずに見ていただけのあの頃からは...。
スーシェフといえば2番手です。
ソースを仕上げる重要な仕事はもちろん、
なにより厨房を仕切らなければいけません。
10数人のフランス人しかいないこの厨房を。
アパートに帰るとディディエがいつものように
ぬるい缶ビールを2本持って僕の部屋に来ました。
「トモ、聞いたよ。断ったんだって。」
缶ビールを僕の目の前のテーブルに1本置き、
僕がそのビールを手に取る前に、彼はもう1本のビールを飲み始めました。
「うん、断った。でも、もうしばらくはここにいるよ。」
「スーシェフになるんだろ。」
彼の顔はにこやかででした。
「そうなんだ。僕に出来るだろうか。」
と、言いつつも、出来るような気が僕はしていました。
「大丈夫。俺がサポートするから。頑張れよ。」
それでも、彼の言葉は僕には心強く感じました。
僕がスーシェフの仕事を出来るような気がしていたのは、
ディディエがいるからだったのかもしれません。
彼は、いつも僕のことを気にかけて助けてくれていました。
ミカエルが最後の日、
彼が去る前に僕にかけた言葉は、
「トモ、前に進め。」
彼の言うとおり、僕は前に進まなければいけません。
みんなが応援してくれ、支えてくれているのですから。
つづく
*この記事は、僕の修行時代のことを書いています。
メニュー構成をすこし変更いたしました。
今回の変更で、MenuA(@6,300)、MenuB(@8,400)でも、
アラカルトの中からすべてお好きなようにチョイス出来るよういたしました。
http://www.aileblanche.jp/menu.html
“そんなにたくさん品数はいらないけれど、自分で好きな料理を選んで食べたい”
“お友達と食事に行って、お互いに別々の料理をチョイスしたい”
そんな方のご要望にお応えします。
皆様に気軽に楽しんでいただけるようにと、今回のメニュー構成変更をいたしました。
そして、ホームページも少しリニューアルしましたのでご覧下さい。
http://www.aileblanche.jp/index.html
これからも皆様に愛されるレストランを目指します。
どうぞよろしくお願いいたします。

10月1日、
エルブランシュのメニュー構成をよりお客様に優しく、
そして、僕がより上を目指すために、
ちょっとした変更をしました。
何が変わったかというと、
今までMenuA、B,Cと3つのコースがありました。
MenuAとBでは僕がもっとも愛する食材、
マダムビュルゴーのシャラン鴨の料理をチョイスできず、
MenuCではオードブルはチョイスできませんでした。
今回の変更で、これらのMenuA,B,C3つのすべてのコースで
アラカルトから好きなものを、すべて自由にチョイスできるようにしました。
それから、料理名の表記方法を食材を中心にした表記にいたしました。
例えば、
“ランド産フレッシュフォワグラ ”
ゆっくり中がとろりとなるようポワレして、キノコのポタージュと一緒に
というような感じです。
そしてもう一つ、
僕が今までの仕入れルートを駆使して全力で手に入れる極上の食材。
この極上の食材を中心にしたMenu Supreme(ムニュー・スュプレーム)、
「極上食材のコース」14,700円を設けました。
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Menu Supreme “極上食材のコース」 14,700円
ヴァイオリンにストラディヴァリウスがあり、ピアノにスタインウェイがあるように、
食材の世界にも、ジャンルごとに眩しいばかりの極上食材があります。
エルブランシュは基本的に極上食材を選んでいます。
しかし、上には上があるもので、奇跡のようにすばらしい、
恩寵のような食材が手に入る機会が不意に訪れることがあります。
たとえば、純粋サフォーク種100%の仔羊、世界で200頭だけの純血バスク豚・・・
夢のようにすばらしい食材で、それらを入手できるチャンスは突然訪れ、
その機会を逃したら、もう2度と手に入らないこともあります。
そんな機会が訪れたときには、なんとしてでも、買いたい。
そしてエルブランシュのお客様に、召しあがっていただきたい。
そこで、このMenu “Supreme” 極上食材のコース をご用意いたしました。
奇跡のようにすばらしい、恩寵のような食材、そしてその魅力を最大限に活かすフルコース。
どうぞ、エルブランシュで、王侯貴族のディナーを味わってください。
極上食材はロットが限られていますので、内容はそのときどきで変わります。
お問い合わせの上、ご予約をお願いいたします。
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このコースは、
極上の食材を目の前にすると、つい手が出てしまう、
そんな僕のためのコースです。
皆様に是非、召し上がっていただきたい最高の食材をそろえ、
ご予約をお待ちしています。
いつもご来店いただいている常連のお客様に優先的に
極上食材情報をお送りしています。
エルブランシュはその名のとおり白い羽をもっています。
さらに上へ上へと羽ばたいていきたいと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
*ホームページの変更が間に合いませんでした。すいません。
これを機にレイアウトを変更する予定です。少々、お待ち下さい。