料理人の休日

ryorinin.exblog.jp ブログトップ

ロティの星 (その7)

中心で浮かび、外側で沈む。



それを見て、僕はハッとしました、「これだ!」
水分は熱せられると対流を起こします、円を描くように。



僕のイメージはそれまで、
肉汁は直線的に(放射線上に)
外側から中心へ向かって動いてゆく、
そんなイメージでした、
しかし、そのとき、沸騰した鍋のなかの野菜の動きを見た瞬間、
実は、肉汁の対流のイメージは、
むしろ〈肉汁は、円を描くように対流する〉、
そんなイメージをもつようになりました。




〈肉汁は、円を描くように対流する〉
そのイメージとともに、
僕は、ふたたびロティに挑戦しました。

鴨のロティのオーダーが入ると、
まず、鴨の皮の方から、じっくりと、
脂を溶かすように焼き色をつけ、
ころあいをみて裏返します。
裏側はあまりしっかり焼かず、
軽く色がついたら、オーヴンへ。
さあ、ここから
〈肉汁は、円を描くように対流する〉
イメージを、頭の中で描きます。
僕の頭に中では、
鴨の肉の内部の肉汁が、じわじわと円を描くように、
外側から中心に向かっていきます。
重要なのは、肉汁が中心に向かうスピードの変化です。
焼き色をつけた鴨肉は、
この時点では、ほとんど肉汁の動きはありません。
200度以上の高温のオーブンに入れて、
1、2分すると、肉汁が動き始めます。
ゆっくりと、中心に向かって。
そして、あるタイミングで、スピードがぐっとあがります。
ここです!ここ!
このタイミングでオーブンから取り出し、
アルミホイルをかぶせて、保温するんです。
そして、このアルミホイルに包まれて、
鴨肉がしばし、眠っている間にも、
肉汁は円を描くように中心に向かっていきます。
15分くらい眠ったころ、
熱々に熱せられた肉汁が中心にたどりつき、
そのときの温度は約60度。
僕の頭の中では、こんな風にイメージします。
すると、いい感じにしっくりくるようになりました。
鴨肉を切ると、中はきれいなロゼ色です。




それからというもの、僕は、必ず、
円を描くような対流のイメージで、ロティすることにしました。
そう、この時点で、僕の理想のロティの、
半分は完成していました。


ただ、頭の中で、肉に火が入ることをイメージすることに集中するあまり、
目の前の肉を焦がしたり、オーダーを聞き逃したりと失敗もあり、
ときには、「日本へ帰れ!」と、危うくクビにもなりかけもしましたが。




僕は、自分のロティを完成させるべく努力しました。
その甲斐あって、なんと
ブルターニュにある当時一つ星のオーベルジュ・グランメゾン、
そして、アルザスにある当時二つ星のランスブルグなどで、
ロティスリーを任されるようになりました。




駐車場には、ベンツはもちろん、
黒塗りのリムジン、 ポルシェ、フェラーリ、カウンタックなどの、
高級車がずらりとならび、
エントランスにはふたりのドアボーイが、
美しく着飾ったお客様をお待ちしていました。
僕はいまでも思い出すことができます、
毛足の長い絨毯の上を歩く、
エナメルのつやつやの革靴、真っ赤なピカピカのハイヒール。
ウェィティングルームで次々と抜かれる
ドンペリやクリュグなどの高級シャンパン。
見上げると大きなシャンデリアが煌々と輝いていました、
僕の見たことのない別世界を照らし出すように。




つづく
[PR]
by le-tomo | 2008-09-27 12:41 | ロティの星
line

エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite