料理人の休日

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世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その17

〈仕事ついての、もうひとつの考え〉、
僕は今回、そんなことを考えていました。
順を追っておはなししましょう。





実は、僕は今回この文章を書き終えるにあたって、
この日の「コース、オートクチュールのように」で
いただいた料金について、
書こうかどうしようかかなり迷いました。
ふだんの僕の流儀は、
原価のことも正直にお答えして、
喩えていえば僕の全部のカードをお客様に見せながら、
正直に仕事をするようにしています。
ですから今回も、彼女のためにお出しした、
「コース、オートクチュールに」の値段を正直に書こう、
と僕は一瞬思いました。
でも、そう思った後で、
今回、もしもここで値段を書いてしまうと、
この日、僕が味わった料理人としての幸福と、
そして彼女のすばらしい微笑みが、
ほんの少し、つまらなくなってしまうような気がして、
迷ったあげく、値段を書かないことにしました。




僕はいつもと同じように
鉄壁の原価計算をおこない、
(しかも正直に打ち明けると)だいぶ割引した
お値段をつけました、もちろん感謝の気持ちです。






実はそんなことよりも今回、
僕には、もっと大事な気づきがありました。
それが、〈仕事ついての、もうひとつの考え〉でした。
「今度ね、シェフのお任せを作ってください、
予算は関係なく」、という今回の彼女の依頼は、
彼女のいたずらっぽい遊び心であると同時に、
フランスのグラン・メゾンが、
お客様に提供し続けているサーヴィスに
どこかで通じ合っているように、
僕には思えました。
もっとも、フランスのグラン・メゾンは、
その、お客様のためだけの料理を(今回の僕のようには)、
ほとんどつくることはないでしょう、
けれども、グラン・メゾンのサーヴィスのめざすところは、
まさに、「そのお客様のための」サーヴィスであり、
そしてお客様はその「自分のためだけのサーヴィス」に対して、
代価を払います。





エルブランシュを、グランメゾンと呼ぶ人は誰もいませんし、
僕自身も、グラン・メゾンだなんて思ってはいません。
僕はただ食材の質と的確な調理法に関して、
とことんこだわっているだけです。
ただし、エルブランシュは開店当初に比べて、
どんどん高級志向をはっきりさせてきました。
現在エルブランシュは、
9,800円(税込み)と14,700円(税込み)と
あとはア・ラ・カルトです、
ちなみに同業者たちは、この設定に感心してくれる人もいれば、
心配してくれる人もいます、
ただしほんとうは心のなかで思っていることは同じです、
(コース8000円くらいで成り立つレストラン経営にすれば楽なのに、
なんでまたわざわざ好き好んで・・・)。





実は開店当初は、極上食材コース(14,700円)はまだなく、
上が10,500円で、下に二つのコース、6,300円と8,400円がありました、
でも、僕は開店半年後に、下を切って、上の(価格の)導入を決断しました。
スタッフ全員で議論したあげくの大冒険な決断でしたが、
しかし極上食材コースを導入して以降、
(当初の僕たちの心配とは裏腹に)
お客様は増え続けています。





そうなるとソムリエの弟も、いっそうマニアックに、
自分の趣味に合った、そして常連さんの顔を思い浮けばながら、
高級ワインを買うようになりました。
ワインのおいしい店としても愛されるようになりました。
なかには、「ほんとにこの値段でいんですか?」
とまでおっしゃるお客様さえいらっしゃいます。
もちろん僕はお答えします、「大丈夫です、
ちゃんと利幅は乗せてますから。」





あれからお客さんが増えてきたのも、
それまで僕のなかにあった迷いが吹っ切れ、
エルブランシュのイメージがはっきりしたからだと思います。
僕のなかには、ずっと
〈世界でいちばんおいしいごちそう〉への夢があり、
それはいつも究極の到達目標であり、僕のなかの料理の基準です、
そして今回、彼女は、僕に、
そのお客様のためだけのコース、
そう、「コース、オートクチュールのように」
という発想への扉を、
僕のために開けてくれました。




そしてそれは僕がこれまで無意識に持っていた
〈仕事ついての、もうひとつの考え〉を、
はっきり自覚させてくれるものでした。






つづく
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by le-tomo | 2008-07-22 02:22 | 世界でいちばんおいしいごちそう
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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