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料理人の休日

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世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その12

僕の父は、(いまはもう引退しましたが、その頃)
日本料理の板前でした。
かつて二十歳の頃、僕があまりの修行の辛さに
弱音を吐いて、夜逃げするしかない、と思ったとき、
せめて父親にだけは報告しておこうと
(叱られるのを覚悟で)電話をしたとき、
父は、おもいのほかあっさりこう言いました、
「そうか、嫌になったか。
戻っておいで。その代わり、智寛、
もう二度と包丁は持つなよ。」



「もう二度と包丁は持つなよ」
父のその言葉は、
僕の甘い考えをぶち壊し、
僕の人生の退路を断ちました。
けっきょく僕は夜逃げを辞め、
修行を続け、いま思えば、
あのとき辞めずに修行を続けたからこそ、
今日の僕があるわけです。
逆にもしもあのとき僕が夜逃げをしていたら、
いまごろ僕はなにをしていたかまったくわかりません。




そこで僕は、今回、父に魚を選んでもらうことにしました。
父の魚選びは確かです、目利きです。
僕は父に電話をしました、
父の選んだ魚で、料理を作ろうと思って。
僕が電話をすると父はこころよく息子の頼みを聞き入れてくれ、
翌日発泡スチロールに入った、
とびっきりピカピカの輝くようなグジ(甘鯛)が、
エルブランシュに届きました。
(福井では甘鯛のことをグジと呼び、
京都の高級料亭に卸されるような高級魚です)。
身は柔らかく、繊細で、ていねいに焼きあげると
ふっくらふくらみます。
グジと一緒に、母の書いた短い手紙も入っていました。
「お父さんが朝早く、市場に行って買ってきたグジです。
体に気をつけてください。」


つづく
by le-tomo | 2008-07-17 05:49 | 世界でいちばんおいしいごちそう
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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