料理人の休日

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世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その9

僕は、まずメインになる料理を考えることにしました。
最初は考えました、
彼女の食べたことのない食材がいい、
仔牛もいい、ほろほろ鳥もまだ食べてもらってない、
そうそう、あの鶉も最高。
でも、いろいろ考えたものの、
決定的な確信は生まれませんでした。





彼女はレストランゴアで、
一流のレストランで、一流のものをいろいろ召し上がっています。
彼女の笑顔と感動のためには、
もちろん一流の食材でなくてはなりません。
そこは大丈夫です、僕は一流の食材を仕入れるルートは
しっかりともっていますから。
そう、どんな一流レストランとも渡り合える、極上食材のルートを。
ただし、(これはいつも言えることですが)
単に極上食材を仕入れるだけでは弱い。
今回は、ほかでもない「彼女のために」、
彼女を喜ばせるための調理法、ソース、
そう、僕が彼女のことを思い描きながら料理をイメージすること、
ここが今回のゲームの最大のおもしろさです。





なにかきっと決め手があるはず。
僕は答えのでない宙ぶらりんの状態のなかで、
考え続けました。実はそれもけっこう快感です、
いつか必ず答えは出るものですから。







彼女は、この予約当日までのあいだ、
ことあるごとにふらりとうちへ通ってくれました。
彼女はワインを片手に、お友達とおしゃべりを楽しみます、
なにげない彼女の言葉を、
僕は調理をしながら聞いています、
なにかヒントがないだろうか、と思いながら。
僕はいつしか自分が〈価値観について〉考えていることに気がつきました。
そう、このゲームは、
いうものように〈自分の価値観〉のなかで最高の料理を
お客様に差し出すのではなく、
むしろ〈自分の価値観〉に叶い、なおかつ〈彼女の価値観〉にも叶った、
おたがいにとって最高の料理を考え出すことにあるのですから。




僕の価値観は、
最高の食材、食材のおいしさを最大限に引き出す的確な加熱、
ソースの魅力を活かした味のバランス、
すっきりしていてなおかつ魅力あるレシピ、
そしてそれを実現し続けるために、
原価計算を正確におこない、またさまざまな人間関係も、
良好に保っています。
たとえば僕がビュルゴー家のシャラン鴨や、
フランソワ・ユエさんのラカン鳩や、
柳生さんの仔羊を高額で買い続けるのは、
僕からかれらへの感動であり、
支持投票であり、すなわち僕の価値観の表明なんです。






では、彼女はこの世界のなにによろこび、
なにを大事にし、愛し、
逆にどんなものを軽蔑しているでしょうか?
エルブランシュのどこを支持し、
どんなところをよろこんでくれているでしょうか?





ふと彼女が話した会話が耳に残りました。
「このあいだいただいた柳生さんの仔羊、
もうおいしすぎて、感動しました。
わたし、北海道に行くときは、
ぜったい柳生さんに会いに行きます。」



(実は、柳生さんは北海道の美深町で、
牧場経営のほかに、
ゲストハウスも運営してらして、
彼女はそれもネットで検索してご存知なんです。)



そういえば僕は思い出しました、
彼女が、柳生さんの生後四ヶ月の仔羊を食べてたときのことを。
彼女は、無心でその仔羊を食べ、こう言ってくれました。
「おいしい! すごくおいしい!
わたしも柳生さんの育てた仔羊を応援します。」


「おいしい」という言葉ももちろんうれしかったです、
でもそれ以上に僕をよろこばせたのは、
「わたしも柳生さんの育てた仔羊を応援します」という言葉でした。




つづく
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by le-tomo | 2008-07-14 12:55 | 世界でいちばんおいしいごちそう
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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