料理人の休日

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世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その8

僕の頭にふとひらめいたのは、ファッションの世界の、
オートクチュールの世界でした。
現在のファッション業界では、それはデザイナーズ・ブランドの
春と秋のコレクションに出品されるような洋服という意味で
使われる場合が多いようですが、
ただし、もともと〈オート・クチュール〉という言葉は、
高級メゾンがお客様の体の形に合わせ、
しかも色、柄、素材などさまざまな好みを反映させた、
高級注文服のことで、
それこそ王侯貴族やオペラ歌手、近年ではロック歌手、
そのほか世界中のセレブたちが、
さまざまなメゾンのオートクチュールを愛してきました。
(ちなみに現在のオートクチュールの定義はむかしとは異なり、
現在の仕様はそれぞれに違い、僕にはとうていわかりかねますが、
ただしエルメスやシャネルなどの
「オートクチュール」は、200万円以上するそうです。)







僕は今回さる常連さんからいただいた依頼を考えるのに、
〈オートクチュール〉という考え方を使おうとおもいつきました。
僕は、オートクチュールという言葉の原義に遡り、
僕もまた料理人として、お客様のことを考え、
あなたのためだけの料理を思い描き、
あなたのことを思ってつくる、
そんなコースを考えることにしました、
「コース、オートクチュールのように」という言葉とともに。






もっとも、こういうふうにお客様の舌の好みを想像して
料理を調整する、そのこと自体は、
エルブランシュ開店以来、常連のお客様と
お話ししながら料理を作るなかで、
これまでもじゅうぶんやってきたことです。
僕はそれをたのしみさえしました。
しかし、今回のように、フルコースのすべてを
それぞれんの料理の最初から、
しかもフルコース全体の構成にいたるまで、
「値段を気にせず」
そのお客様のことを考えながら、
組み立てるのは、僕にとって、料理長人生八年ながら、
生まれてはじめての経験でした。





それからというもの、
僕は、彼女のことをずっと考えました。
彼女の言葉、ふるまい、
もちろんこれまで僕の料理に対して、
どんな反応をし、どんな笑顔で、
どんな感想をくれたか。
いつのまにか僕は、ミステリ小説の探偵になったような
そんな気分を味わっていました。





いっけん彼女のふるまいや言動は、
自由奔放にそして気ままに大胆にも見えたものです、
僕も最初は彼女にとまどったときもありました、
でも彼女の笑顔は僕をよろこばせましたし、
そして彼女がいつも言う、
「至福の時間は、お金では買えませんから」
という言葉。
その言葉を何度も聞くうちに、
僕はいつしか、
彼女はいっけん奔放に見える行動や言動の奥で、
実はほんとうは繊細に、人生にとって大事なことを、
深く考えているように僕には思えました。
思えば、彼女はいつも自分で出した答えに賭け、
自分で出した答えを信じ、
どんなときも覚悟をもって発言していました。
そう、彼女は、心の強い女性です。
そして僕は、そんな彼女に選ばれた料理人であることを、
うれしく思いました。






さて、ではいったい僕は、彼女のために、
どんな「コース、オートクチュールのように」を作りましょう?
僕はいつのものように、まずコースのメインの食材を考えました。
そして次に、メインに合わせ、
オードヴル、魚料理と順番に考え、
彼女のイメージを具現化させてゆきました。
いつのまにか僕はこのゲームに夢中にすっかりなっていました。




つづく
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by le-tomo | 2008-07-08 12:47 | 世界でいちばんおいしいごちそう
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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