料理人の休日

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世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その7

「値段を先に決め、料理を逆算する」のと
「料理を先に考え、原価を足し算して、値段を決める」のは、
料理にどんな違いをもたらすでしょうか?




これまで僕は、まず値段を決め、
その値段に収まる最高の料理を逆算してゆく手順で、
料理を考え、作ってきました。
ところが今回常連さんは僕に言いました、
「シェフのお任せを作ってください、予算は関係なく。」
いつもとは逆の発想が求められます。
と同時に、僕は「無限の」自由を与えられたわけですから、
僕は大いによろこび、奮起しました。




ふだん僕は、値段を先に決めます。
あらかじめ主要極上食材の原価を軸に価格を設定し、
たとえば税込み9,800円のシャラン鴨メインのコースにせよ、
税込み14,700円の極上食材コースにせよ、ともに40%に収まるように。
(もっとも、極上食材のコースは、ときに
食材原価が40%超えてしまうときもありますが)
他方、ア・ラ・カルトのなかにはとうぜんもっと原価率を抑えた
ものもまたあるわけです。
(またこの連載では余談になりますから触れませんが、
ワインが経営を助けていることも実は重要です、
ワインの原価率も価格帯に応じて幅をもたせ、
高額ワインになるほど利幅を薄く設定しています。)
僕の頭のなかには主要食材の値段はだいたい入っていますから、
そこから逆算してコースを組み立てれば、原価計算も簡単です。




さて、今回、僕は、「作りたい料理をおもう存分作って、
それにふさわしいお値段をいくらでもお払いします」という、
ありがたい言葉を常連さんからいただいて、
僕が最初に考えたことは、料理人ならだれもが考えることでした。
これまで価格の関係で惜しみながらしか使えなかった食材や、
使うことを我慢してきた高級食材を
おもう存分使ってみるということ。



僕が即決したのは、
キャビア(100g、2万円以上)、
そして季節柄・夏トリュフ(1キロ6~10万円)です。
即決の理由ははっきりしています、キャビアやトリュフは、
〈価格 対 おいしさ〉のバランスこそとても悪いものの、
ただし、フランス高額レストラン料理の顔のような食材です。
しかもいつもはたいそう惜しみながらしか使うことができない
それらの食材も、たとえばコース25,000円もいただくいならば、
ずいぶん余裕をもって贅沢に使うことができます。




では、一尾8,000円以上のオマール・ブルトンはどうでしょう?
あの優美な白身肉、たおやかで肉質のしまった美質は
こたえられません。ただし、こちらは微妙です、
なぜなら、最終的な値段をいくらにつけるか、
ということとも大いに関係してくることですから。
なぜ、僕はオマールに悩むでしょう?
これまで僕はずっと14,700円税込みを上限にやってきたわけで、
それを今回、「シェフのお任せを作ってください、予算は関係なく。」
というおはなしをいただき、
では、今回はお言葉に甘えて50,000円でフルコースをおつくりします、
というのは、これはどう考えても、僕の人生観に合いません。
そんなことをすれば、
僕がこれまでさまざまな努力のなかから作り上げ維持してきた
税込み9,800円のシャラン鴨メインのコースや、
税込み14,700円の極上食材コースを
自分で否定するような気がして、
それはすなわち僕やエルブランシュのスタッフ全員の努力を、
そしてエルブランシュを支持し、愛してくだすった常連さんたちを
裏切るように思えるからです。
そんなことはできません。




それからまたもしもフルコースを構成するすべての料理を
値段の高い食材ばかりで構成してゆくのも、
ナンセンスな話です、
なぜなら、料理のおいしさは、それを食べたときの感動にこそあります。
感動の条件はさまざまですが、
人は値段が高いから無条件に感動するなんていうことは
絶対にありません。



そこで僕は方針をたてました。
今回もいつもと同じように、原価計算は質実にやること。
あくまでも、これまでの
税込み9,800円のシャラン鴨メインのコースや、
税込み14,700円の極上食材コースの延長線上にある、
きびしい原価計算でコースを組み立てること。



僕の頭のなかに、なんとなく、イメージが浮かびはじめました。
まだ固まってはいないし、いくつか変更はありえるけれど、
それでもだいたい25,000円くらいに収まる
すばらしいフルコースのイメージが。
(ふだんの極上食材コースが、
王侯貴族のディナーならば、
今回は、同じ王侯貴族でも、モナコというイメージです)。
すごいコースだなぁ、と僕は興奮しました。



いつのまにか僕はかつての修行先、カンヌの
ル・ムーラン・ド・ムージャンの
駐車場に並ぶ豪華な車のボディが陽光に照らされている光景、
毛足の長い絨毯、ハリウッドスターたちの笑顔を、
おもい浮かべていました。
そして常連さんの笑顔が浮かびました、
僕の耳は、彼女の感動の声を聞きました。




でも、そのうちに僕は、なにかが足りない、
と、思うようになりました。
では、いったいなにが足りないんだろう?
足りないものなんてもはやなにもないはずなのに。
いや、足りない、ぜんぜん足りない。
そもそも僕の考え方は、せっかくのゲームを
存分にはたのしみきらず、むしろ
つまらないものにしてるんじゃないだろうか?



僕は、いつのまにか無意識のうちに、
極上食材コースのエクストラ・ヴァージョンをイメージしていました。
これでは、「ほんとうの意味では」、いつもと同じです。
その時、僕の頭に浮かんだのは、
彼女のために料理をイメージし、
彼女のための料理を作る、という考え方でした。






つづく
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by le-tomo | 2008-07-08 12:46 | 世界でいちばんおいしいごちそう
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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