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料理人の休日

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エルブランシュは、柳生さんの育てた仔羊を応援します。その4

僕らフランス料理のシェフは、
2000年以降、農水省の神経質な政策によって、
モンサンミッシェルの仔羊・プレサレや
ボルドーのポイヤック村の乳飲み仔羊をはじめ、
フランス産の乳飲み仔羊がまったく買えなくなって以来というもの、
オーストラリア産やニュージーランド産の仔羊を
ずっと使い続けてきました。
たしかにオーストラリア産仔羊は、ジューシーでおいしい。
ニュージーランド産仔羊は、繊細な味わいでおいしい。
値段も順当で、部位ごとに買えます、
したがってこちらも使いやすい。
いずれも一流のレストラン・フレンチに見合う
立派な仔羊だとおもいます。



でも、プレサレやポイヤック村の乳飲み仔羊など、
フランスの仔羊肉の表現力を知っている料理人にとっては、
あの、赤ワインの濃いソースにまったく負けない
味の力強さと、それでいて併せ持った繊細さときめこまやかさを
忘れることができません。
しかし、繰り返しますが、日本でフランス料理を作っている限りは、
フランスの仔羊を使うことはできません。
そうなると、僕らにできる選択は、
オーストラリア産やニュージーランド産の仔羊を使い続けるか、
あるいはフランス産の仔羊に負けない質の仔羊を、
誰かに作ってもらうしかありません。





そんな僕らの煩悶に気づいた、ある業者さんがいました。
その業者さんは(僕らの気持ちを代弁するように)
北海道の羊農家の人たちに働きかけました、
ぜひフランス料理用の仔羊(4ヶ月以下)を作ってください、
そしていつの日かプレサレに負けない仔羊を作りましょう。
しかし、ラムやマトンの需要の大きさに比べて、
フランス料理用の乳飲み仔羊の需要はあまりに小さい、
しかも4ヶ月以下で落とすなど、育てる手間ばかりかかって、
その割に、それに見合う値段をつけにくい、
あらゆる点で割に合わないわけです、
ですから、羊農家の人たちは、誰もが、そんな話に
のってきてはくれませんでした。




そんななか、美深町(びふかちょう)という、
町の、とある羊農家の人が、
じゃ、作ってみましょうか、と手を上げました。
彼の名前は、柳生佳樹さんです。
柳生さんの農場は、
稚内と旭川の中間にある
美深町という町の、町外れにあるそうです。
冬は雪がしんしんと降り積もり、凍えるほど寒く、
短い夏は暑い、そんなところだそうです。
柳生さんは、広々とした牧場で、羊300頭を育て、
その上、フランスにはむかしからある
羊のミルクを原料としたチーズに触発され、
さまざまなチーズを作り、
羊のミルクを使ったアイスクリームや
ヨーグルトの製造も行っておられるそうです。







柳生さんは、ただたんじゅんにジンギスカン用の
羊をたんに若いときに落とすのではなく、
僕らフランス料理の料理人が欲しい仔羊を理解して、
最初の掛け合わせから考えて、
まさにフランス料理のための仔羊を作ってみましょう、
と、おもいたってくれました。
ちなみに世界最高の仔羊・プレサレは、
サフォーク種とグレヴァン種です。、
たしかにすばらしくおいしいけれど、ただし残念ながら、
繊細で、病気にかかりやすく、繁殖率が低いというリスクがある。
そこで柳生さんはまずオーストラリア産の羊ドゥーセットという、
元気に育つ種とカナダの野性味あふれる力強いロマノフという種に、
サフォーク種を掛け合わせ、
柳生さんの仔羊を育てることを選びました。





僕は、業者さんを通じて、
柳生さんの育てた仔羊を買いました。
僕は、その柳生さんの仔羊を見た瞬間、
一瞬で、いろんなことを感じました。
まず、柳生さんの育てた仔羊は艶があって、明るい。
薄暗いところで見ると、肉が輝くんです。
肌の調子が艶やかで、綺麗です。
小ぶりだけれど味の濃い肉質。
しかも皮の剥ぎ方もていねいで、肉に傷がまったくありません。
臭みもまったくない。
僕はその肉を見ただけで、松山さんが
どれだけこの仔羊をかわいがって育ててこられたかが、
伝わってきました。
さっそく調理してみると、
乳飲みを終えたばかりの4ヶ月未満ならではの、
身の柔らかさ、ミルキーさも感じられます。
このクオリティなら、
もはやオーストラリア産仔羊の肉質を超えています。







しかも柳生さんは言ったそうです、
「まだ掛け合わせたばかりですから、
ほんとうにサフォークの味は反映されてないでしょう、
あと2、3年たてば、だんだんサフォークらしさが出るでしょう。」
この言葉にも、僕は、柳生さんの正直と誠実を感じました。
なぜなら、僕は、修行時代に、
プレサレやポイヤックを使ってきましたし、
ですからその肉質も、味もよく知っています。
でも、「サフォーク種の味わいがどこまで反映しているか」
種の掛け合わせのバランスまでは、僕もわかりません、
ワインを飲んで葡萄の品種を感じるのとはわけが違って、
難易度は高く、早い話が、僕らだって、
言われてはじめて、そうか、とおもうような事柄です。
それでも柳生さんは言うわけです、
「まだ掛け合わせたばかりですから、
ほんとうにサフォークの味は反映されてないでしょう、
あと2、3年たてば、だんだんサフォークらしさが出るでしょう。」





そして僕は、柳生佳樹さんという人に興味を持ちました。
そこでそれとなく業者さんに話を聞いたり、
ネットで検索したりして、
少しづつ柳生さんのことを知ってゆきました。


つづく
by le-tomo | 2008-04-22 12:59 | エル ブランシュへ、ようこそ
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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