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料理人の休日

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~第86章 僕の上司はイタリア人 ~  <僕の料理人の道>

髭をはやした50歳くらいの小柄な男性が、
ちょっとヨレヨレになったコックコートで、僕に近づいてきました。

「ボンジュール」
彼は笑顔で僕に話しかけてきて、とても気さくで親しみやすい感じでした。
彼の名はショレイ。
この名店の厨房を切り盛りするシェフです。

彼の指示で、若いアプランティ(見習い)が僕を寮まで連れて行ってくれました。
レストランから歩いて5分ほどのところに寮があります。

・・・決してきれいとはいいにくい、ちょっと傾いてるんでは?といった建物です。
仕方ありません。
一つの部屋に2人づつ。
僕を連れてきてくれた彼が、これから一緒に寝泊りするルームメイトのようでした。

早速、荷物を置いて、コックコートに着替え、
調理場にルームメイトのシルヴァンと一緒に向かいました。
フランスでは、到着するやいなや、即仕事にはいるのはよくあることです。

僕の最初のセクションはロティスリー。
主に肉料理を担当する部署です。
日本人は魚料理を担当するセクション、
ポワソニエになることが多いと聞いていましたが、
僕はなぜかロティスリーに配属されることが多かったのです。

毎日、毎日、大量の仔羊や鴨をさばきました。
今まで僕が、フランスで働いたレストランの中で、ここ、ムーラン・ド・ムージャンが
もっとも大きなレストランだったので、料理人の数も半端じゃないのですが、
食材の量も半端じゃなかったのです。
30数人いる料理人が、各セクションで自分の分担する仕事をテキパキとこなし、
朝、大量に届いた食材は、ランチが終わる頃には全部下処理を終え、
大きな、大きな冷蔵庫にしまわれます。

調理場も無茶苦茶大きく、離れにももう一つ、調理場がありました。
この離れでまかないも食べました。
これだけの人数が働いていると、まかないも半端じゃない量です。
ちょっとした宴会のようでした。

ここで僕は肉をロティ(ロースト)したとき、
一定時間、オーブンから出した肉を休ませることの重要性を叩き込まれました。
もちろん、今までもそうしてきました。
でも、ここでは肉を休ませることをとてもうるさく言われました。
そのため、ディナーが始まるとすぐに、
仔羊や鴨なんかの肉をある程度の数だけ焼きはじめていたのです。
そう、オーダーを待たずに。
ゆっくり、ゆっくりと休ませながらじっくりと火を入れていったのです。
しかも、できるだけ大きな塊で。
そうやって焼かれた肉は、中がきれいなピンク色で、
その切り口は、本当に美味しそうでした。

もう一つ、驚いたことに、
この調理場には、肉と魚を焼くところ、それぞれに鉄板が設置されていました。
あの、日本では、お好み焼きを焼くような鉄板が。
この鉄板はとても便利でした。
フライパンを一回一回洗わなくてもいいのですから。
もちろん、その便利さより重要なのは、食材を焼くのにもっとも適しているということ。
分厚い鉄板は、薄いフライパンと違って、肉や魚を置いてもそう簡単に温度が下がりません。
それは、きれいな焼き色をつけるのにはもってこいです。
焼くむらもほとんど出来ないのです。
僕が、自分のお店を持つことになったら、鉄板を置こうと、このとき思いました。

ムーラン・ド・ムージャンは世界的に有名なレストランです。
料理人も世界中から勉強に来ています。
イタリア人、ポルトガル人、アメリカ人、スペイン人...。
調理場はフランス語か英語が飛び交います。
ロティスリー部門の、僕の上司はイタリア人でした。
なんだか、不思議な感じです。
これだけ国際色豊かな調理場はそうないと思います。

これが世界に名をはした、
ロジェ・ベルジェ氏のレストラン「ル・ムーラン・ド・ムージャン」なのです。



つづく



*この記事は、僕の修行時代のことを書いています。
by le-tomo | 2008-03-11 00:02 | 僕の料理人の道 81~90章
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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