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料理人の休日

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なぜなら、マヨネーズがあったから。

なぜ、僕はフレンチを選んだのだろう?
ふと、そんなことを思い、昔を思い出しました。

当時、18歳の僕は、一流の料理人になるという夢を持って、故郷を離れ、
大都会、大阪にある、日本で最高レベルといわれた調理師専門学校に通っていました。
毎日が新しいことばかりで、田舎者の僕には刺激的な街でした。

フランス料理の料理人を目指し、一日も休まず専門学校に通い、
いつも一番前の席を陣取っていました。
そしていつもまにか、号令係りになったりもしていました。
父の持っていた「荒川西洋料理書」という本で、西洋料理に興味を持ち
テレビ番組の「料理天国」を見てフランス料理に憧れ、
「ザ・シェフ」という漫画を読んでシェフになる夢を持ちました。
もともと料理人にはなりたいと思っていましたが、フランス料理を選んだのは、
こんな単純な動機が最初でした。

授業では西洋料理というくくりで授業があったので、
フランス料理とイタリア料理、どちらも勉強しました。
当時すでにイタリア料理はブームから定着へなりつつあり、
イタリア料理店はフランス料理店の数を抜く勢いでした。
イタリアンブームの中、フレンチではなくイタリアンを選ぶ仲間も少なくありませんでした。
僕は一瞬迷いました、イタリアンかフレンチ、どっちにしようか。
まだ大阪に出てきて間もない頃です。

そんな時、マヨネーズソースの授業があったのです。
先生はボールに卵黄とヴィネガーとマスタードをいれ、
サラダオイルを少しずつ、少しずつ、入れながら、慎重に混ぜていきます。
すると、驚いたことにどんどん黄色い卵黄が白くなっていき、見る見るうちに、
あの僕の知っているマヨネーズのように粘りが出てくるではありませんか。
僕は驚きました。
あのチューブに入っているマヨネーズがこうやって出来るなんて。
大体、マヨネーズがフランス料理のソースの一つ、
ソース・マヨネーズと呼ばれるものなんて!

イタリア料理の授業も、もちろん面白かったのには間違いありません。
僕の知っていたナポレタンスパゲッティなんてものは
本場イタリアにはないことを知ったのも、この頃でした。
ミートソースは、本当は「ボロネーゼ」なんて聞いたこともない名前だったり、
麺の太さでフェデリーニやスパゲッティなんていう風に名前が変わることを知ったり、
にんにくと唐辛子とオリーブオイルだけで、こんなに美味しいパスタが出来るんだと、
ペペロンチーネと呼ばれるこのパスタ料理には感心もしました。

でも、僕にはマヨネーズソースのような感動はありませんでした。
フランス料理のソースの奥深さはイタリア料理では見られず、
僕はやっぱりフランス料理がいいな、とこの道を選んだのです。
当時の僕の印象では、イタリア料理は、まるで中華料理のように、
手早く、スピーディーにパッパッと作るような感じに思えました。
フランス料理の方が複雑に作りこんでいく感じに思えていました。

実際はどうでしょう?
当時(15年前)は、
イタリア料理といえばB級グルメとも言われカジュアルな感じでしたが、
今ではフランス料理に負けずとも劣らないほどの高級イタリアンもたくさんあります。
フレンチかイタリアンか、区別するのが難しいくらいです。
それでも、イタリアンはカジュアルなイメージが、
一方、フレンチは今でも堅苦しいイメージがまだまだ残っているのではないでしょうか?

麺好きの日本人に、パスタのあるイタリア料理はスムーズに受け入れられて、
瞬く間にフレンチレストランの数を抜き、すっかり定着しているイタリアン。
誕生日や記念日などのハレの日にはやはりフレンチ、と揺るぎない地位を確保し、
ワインブームも追い風になって、グルメやワイン通に愛されているフレンチ。

たまにお客様から、「フレンチとイタリアンの違いって何ですか?」
と聞かれることがあります。

イタリアンは気軽に行けて、フレンチはここぞとばかりのハレの日に行く、
というのが日本では、イタリアンとフレンチの大きな違いでしょうか?
(フレンチも気軽に来て欲しいのですが...)
イタリアンにはパスタとピザがあって、フレンチにはないというのが大きな違いでしょうか?
(フランスにも南仏にはパスタ料理やピサラディエールというピザがありますし、
アルザス地方にもピザと同じような料理、タルトフランベがあるのですが。)

ちょっと専門的な話ですが、僕は、こう思います。
その一番の大きな違いは、フレンチにはマヨネーズがあることだと。
マヨネーズとは卵黄の水分と油(脂)を乳化させるソース。
この“乳化”させるソースが、フレンチにはたくさんあり、基本になっているのです。
例えば、ドレッシングも酢と油を混ぜ合わせ一時的に乳化させます。
それから、赤ワインソースなどのあたたかいソースの仕上げにバターを入れます。
これもソースの液体(水分)とバターという脂の乳化です。
この“乳化”の技術を得ることが、フレンチのソース作りでは大切です。



僕は、これからもフランス料理を作り続けます。
僕がフレンチを選んだわけは、フレンチにはマヨネーズがあったからです。
by le-tomo | 2008-02-18 03:17 | 考えたこと、想うこと
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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