人気ブログランキング |

料理人の休日

ryorinin.exblog.jp ブログトップ

~第85章 開きっぱなしのドアの向こうに~  <僕の料理人の道>

そこには、30人以上の様々な国の料理人たちが、
統率のとれた動きで、きびきびと働いていました。

レストランに程近いバス停で降りて、歩いて1,2分ほど、
「LE MOULIN DE MOUJINS」
と書かれた大きなブルーの看板が目印の決して派手ではないレストラン。

僕はスーツケースを転がしながら、恐る恐るエントランスを覗き込みました。
すかさず、レセプションの女性が「ボンジュール、ムッシュー」と
何かご用ですか?と言わんばかりに言葉をかけてきました。

「すいません、今日からここでお世話になる料理人で日本人のオガワと申しますが...」
「少々、お待ちくださいませ」

女性は、こんな状況には慣れているらしく、驚きもせずに奥に歩いていきました。
午前10時。厨房は仕込みの真っ最中です。

奥のほうからタキシードを着たサービスマンがやってきました。
「ボンジュール、ムッシュー」
「さあ、そこに荷物を置いて。まずは、私がレストランを案内しましょう。ムッシュー・オガワ」

「えっ、あっ、はい。」
僕はちょっと驚きました。
今までのレストランでは、まずこれから寝泊りする部屋やアパートにつれてかれて、
コックコートに着替え、厨房に向かうのが普通でしたから。

慌てて、スーツケースを邪魔にならなさそうな墨の方に置くと、
「私がお預かりしておきますから、安心して。」
と、さっきのレセプションの女性が僕に声をかけてくれました。
「メ、メルシー、マダム」
僕は予測外の出来事に、驚きを隠せない表情のまま、
タキシードを着たサービスマンの後を、緊張しながらついて行きました。

エントランスの正面にあるのは、古い古いムーラン(風車)。
オリーブをつぶしてオリーブオイルを作るためのものだったそうです。
それから、いくつかに分かれるレストランの客室を案内してもらいました。
ガラス張りのテラス席の大きなガラスにたくさんの著名人のサインが残されていました。

ここがあの世界的に有名なロジェ・ベルジェ氏のレストラン、ムーラン・ド・ムージャン...。

ロジェ・ベルジェ氏の作った世界的アーティストが集う空間で、
僕は口を空けたまま、ただ呆然とあたりを見回すだけ。
まるで、そう、夢の中の世界に引きづりこまれ、抜け出すことが出来ないような感じ。

「ムッシュー、それでは先ほどのレセプションへ戻りましょう。寮へご案内します。」
「あっ、はい。ありがとうございます。それから、あの...僕のことはトモでいいです。」
「わかりました。トモ、行きましょう。今日からトモは私達のチームの一員です。」

荷物の置いてあるレセプションに戻ると、先ほどの女性が笑顔で僕達を迎えてくれ、
僕を連れて、裏のほうへ向かいました。
そこは厨房の裏口。

開きっぱなしのドアの向こうでは、30人以上の様々な国の料理人たちが、
統率のとれた動きで、きびきびと働いていました。
僕は今日からこの30人の中で働きます。



つづく


*この記事は、僕の修行時代のことを書いています。
by le-tomo | 2008-02-04 03:27 | 僕の料理人の道 81~90章
line

エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite