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料理人の休日

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~第76章 スーシェフ~  <僕の料理人の道>

レストランの入り口を入ると受付があり、
そこにはいつもにこやかな美人のマダムがお客様を出迎えてくれます。
その後ろに待合室があり、さらに奥に事務所を兼ねたシェフの部屋があります。
SUSIをまかないで作った翌日、僕はシェフの部屋を訪れました。

「シェフ、すいません。この前いただいた、5年間の契約はお断りします。
もうしばらくフランスで勉強したら日本へ帰ろうと思います。」

僕は自分の決心を話しました。
せっかく、僕を認めてくれている、シェフの申し出を断るのが申し訳なく、
僕はシェフの目を見続けることが出来ませんでした。
思わず下を向いてしまいました。

「そうか...。わかったよ、トモ。」
「でも、もうしばらくはここにいてくれるんだろ?」
シェフは一瞬悲しそうな目をしましたが、
僕の目をしっかり見ていました。
「今週一杯でスーシェフのミカエルが辞めるから、
来週からはトモがミカエルの代わりを務めてくれ。」


「えっ...!  もちろんです。ありがとうございます。」
それでも、シェフは僕にスーシェフのチャンスをくれました。





2年前、僕がフランスへ来たときには考えられないことでした。
ただ呆然と厨房の隅に立って、何も出来ずに見ていただけのあの頃からは...。
スーシェフといえば2番手です。
ソースを仕上げる重要な仕事はもちろん、
なにより厨房を仕切らなければいけません。
10数人のフランス人しかいないこの厨房を。


アパートに帰るとディディエがいつものように
ぬるい缶ビールを2本持って僕の部屋に来ました。

「トモ、聞いたよ。断ったんだって。」
缶ビールを僕の目の前のテーブルに1本置き、
僕がそのビールを手に取る前に、彼はもう1本のビールを飲み始めました。

「うん、断った。でも、もうしばらくはここにいるよ。」

「スーシェフになるんだろ。」
彼の顔はにこやかででした。

「そうなんだ。僕に出来るだろうか。」
と、言いつつも、出来るような気が僕はしていました。

「大丈夫。俺がサポートするから。頑張れよ。」
それでも、彼の言葉は僕には心強く感じました。


僕がスーシェフの仕事を出来るような気がしていたのは、
ディディエがいるからだったのかもしれません。
彼は、いつも僕のことを気にかけて助けてくれていました。


ミカエルが最後の日、
彼が去る前に僕にかけた言葉は、

「トモ、前に進め。」

彼の言うとおり、僕は前に進まなければいけません。
みんなが応援してくれ、支えてくれているのですから。


つづく


*この記事は、僕の修行時代のことを書いています。
by le-tomo | 2007-10-14 11:10 | 僕の料理人の道 71~80章
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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