~第73章 人々を幸せにする料理~ <僕の料理人の道>
穏やかで優しい光で全体を覆っているような感じです。
そんな優しい朝日で目が覚め、再び海岸に向かいました。
昼食をとってから帰るとのことだったので少し時間があったのです。
昨日と同じ海岸を、どこまでも続く白い砂浜を歩き、
その後、街に向かいました。
海や魚や貝をテーマにしたお土産を売っているお店がほとんどでしたが、
その中で青い看板の本屋さんを見つけました。
その土地土地で地方料理がありますが、
ここブルターニュの地方料理を紹介している本がないかと、
その本屋さんに入りました。
たくさんの、ブルターニュ料理を紹介した本があり、
そのほとんどがやはり魚介料理でした。
その中で、水色のきれいなハードカバーの本が目につきました。
タイトルは
「La cuisine du bien-etre (キュイジーヌ・デュ・ビアンネートル)」
“ビアンネートル?”
僕にはこの意味がわかりませんでしたが、
きれいな本だったのと
bien-etreという言葉に魅かれて思わず買ってしまいました。
早速、帰ってギヨーシェフにこの本のタイトルの意味を聞きました。
「人々を幸せにする料理ということだよ。」
と僕に教えてくれました。
僕はますます、この本のタイトル「La cuisine du bien-etre」という言葉を
好きになりました。
この本は、有名なミネラルウォーターのエヴィアンが経営する
ル・ドメーヌ・デュ・ロワイヤルクラブ・エヴィアンというホテルが著者で
そのレストランのレシピが100種類のっています。
どれもこれも身体に優しそうな料理です。
この本に書いてあるレシピも素晴らしいのですが、
僕は何より「La cuisin du bien-etre」という言葉に
魅かれたのでした。
(後に、僕はこの言葉をテーマに料理を作るようになります。)
ギヨーシェフの友人のレストランでみんなで昼食をとり、
たらふく海の幸を堪能してから
ギヨーシェフの夢の詰まったレストランのある
ミュール・ド・ブルターニュに帰りました。
ギヨーシェフはあれから、
マダムの前では病気の話や今後のことなど全く話しませんでした。
僕も何も聞けないままレストランに着きました。
車を降りたとき、僕の手には
小さなバック一つと、水色のハードカバーの本が1冊、
しっかりと握りしめられていました。
つづく
*この記事は、僕の修行時代のことを書いています。