~ 第71章 どこまでも続く白い砂浜 ~ <僕の料理人の道>
「そんなに長くは働けない。5年以内に引退するつもりだ。トモ、私の右腕になってくれないか。そして、トモが希望するなら、オーベルジュ・グランメゾンを引き継いでくれないか。」
「....。」
僕は言葉をなくしました。
ギヨー氏の夢を託したレストラン。
グランメゾンを目指し、レストラン名にグランメゾンとそのままつけました。
妻を愛し、家族を愛し、メニューにもマダムの名前がついているミルフイユがありました。
Maitre-Cuisinier de France(メートル・キュイジニエ・ド・フランス)の会長も務め彼は若い料理人の育成にも積極的に励んできました。
ブルターニュ料理の伝承も、彼の使命の一つでした。
そして、レジオンドヌールという勲章も国から授かるほどの料理人でした。
そんな、彼の弱気な姿を目の前にして僕は返事にためらいました。
僕にとってこの話がいい話かどうかなんて、そのときは考えられませんでした。
言葉をなくした僕に、彼は言いました。
「私の夢を託すなんて重荷を与えるつもりはないんだよ。ただ、しばらくトモと一緒に働きたいと思ったんだよ。気にしないでくれ。」
「もし、トモがブルターニュにこのまま残るなら、この海岸を、白い砂浜をいつでも見ることが出来る。私は引退したら、妻と一緒にこの海岸を毎日見ながら余生を過ごすつもりだ。素晴らしいだろ、こんなに美しい海岸が毎日見れて。」
「ありがとうございます。」
僕は、力のない声で、あまり意味のない言葉を彼に返しただけでした。
僕には迷いがありました。
どうすればいいのか...。
マダムが買い物から帰ってきて、僕は一人で海岸に行きました。
ギヨー氏が愛するマダムのために用意した海岸。
僕はその海岸を一人で歩きながら考えました。
このままブルターニュに残るべきか、それとも...
いつまでも、どこまでも続く海岸を歩いていると、あまりの美しさに心が惹かれ、
“このままブルターニュに残ろうか”
と思うようになってきました。
つづく
*この記事は、僕の修行時代のことを書いています。