<第67章 凄腕のパティシエの名> ~僕の料理人の道~
北には英国海峡、南はビスケー湾に面し、大西洋の恵みともいえるオマール海老をはじめ、ヒラメや帆立貝など魚介類が豊富な、フランス一魚介類が得意な地方です。
そして、このレストラン「オーベルジュ・グランメゾン」も例外ではなく魚介料理がスペシャリテのブルターニュ地方独特の料理を提供しています。
肉料理よりも魚料理が多く、中にはオマール海老だけのコースもありました。
今まで働いたレストランの中で一番、魚介の扱い方が繊細で丁寧。
肉と魚が一皿の中でうまくとけあった料理も何品かありました。
たとえば...
仔牛の胸腺肉、リー・ド・ヴォーと手長海老をパイで包んで焼き上げたパイ包み焼き、
仔羊の背肉のローストに仔羊の骨からとった出しにアサリの煮汁を加えたソース、
オマール海老と牛テールを一緒に煮込んだココット料理
僕の目にはどれも新しく斬新に移りました...が、どれもブルターニュの地方料理でした。
僕はフランスに来て3年目に入っていましたが、この独特な料理の数々にわくわくしていました。
高緯度のわりには温暖で、雨が多く、石の色一色の決して派手ではない街並みのブルターニュ地方。フランスにしてフランスではない、そんな独特な風習をもったこの地方に魅かれていました。
フランス料理といえば肉料理を思い浮かべる方が多いでしょうが、ここブルターニュ地方は魚介料理が豊富で、間違いなくフランス一、魚介料理が美味しい地方です。
フランス人が唯一、生で食べる魚介、「牡蠣」
開けたての生牡蠣にレモン汁を絞り、一口でチュルッと、一人1ダース単位で食べるというあの生牡蠣もブルターニュの特産品です。
ディナーが終わり後片付けを終え、ディディエと一緒の帰り道に...といっても1分で着きますが...
「ブルターニュの料理って面白いな」
と話しかけました。
ディディエは僕に
「ブルターニュは特別なんだ。料理だけじゃない、お菓子も独特で面白いよ。」
と僕に自慢げに答えました。
「へぇ、お菓子も独特なんだ。」
僕はここにいるうちにデザートも勉強しようかなと思いました。
せっかく、コンクールの優勝者が近くにいるのですから。
“ディディエ・ピケ”
ちょっと変な名前ですが、今、僕の横を歩いている凄腕のパティシエの名です。
つづく
*この記事は、僕の修行時代のことを書いています。