~ 第62章 3人の夢 ~ <僕の料理人の道>
お気に入りのミュージシャン(アコーディオニスト)のバンドの出演日が水曜日だったのです。毎日、日替わりで違うバンドが交代で出演してました。たしか、日本円で5,000円くらいのディナーコースでミュージックチャージは自由といった感じだったと思います。狭いお店で、決してきれいな内装ではなかったのですが、味のあるいい雰囲気のビストロで、シャンソンがよく似合いました。
僕がこんなに音楽に接するとは思ってませんでしたが、たまたま知り合った友人のおかげで音楽を聴く楽しみがふえました。
彼の演奏するアコーディオンの音色は日本人の僕でもなんだか懐かしい気持ちになれる、心地いい音色でした。フランス音楽はさっぱりですが、癒されるひと時でした。
毎日、仕事が見つからない日々を過ごし、不安が多かったのですが、このときばかりはこんな生活もいいなぁ、なんて気がゆるんだことを考えたりしました。
そんな水曜日の夜、そのビストロから帰ってポストを覗くと、僕宛に手紙が一通、同居人宛にも手紙が一通、届いていました。僕のはブルターニュのレストランからです。
さんざん、手紙を書きまくって断れまくってましたので、レストランから手紙が届いても別に驚きはしませんでした。部屋に帰って手紙を読むと、「来週パリに行くので会いたい」との内容でした。
“これは面接?”
今まで、面接みたいなことが一度も無かったのでちょっと驚きましたが、念願のブルターニュのレストランです。是非、僕もお会いしたいとの旨を翌日、電話で先方のシェフに話しました。
さて、同居人ですが、彼もまた吉報で、ボーヌのレストランからOKの返事をもらいました。
彼は早速来週早々、ボーヌへ出発することを決めました。
僕はまだ決定ではなかったですが、2人同時にチャンスが訪れた特別な水曜日でした。
このことをもう一人のピアニストの同居人に報告し、3人でお祝いの外食をしようと、ピアニストから提案がありました。もちろん、喜んで食事に行くことにしたのです。
行き先のレストランはアパートの近所のイタリアンレストラン。ピアニストの彼のお勧めのレストランです。フランスでイタリアンを食べるのも妙な感じでしたが、麺好きの彼ならではチョイスだったと思います。
そこで3人は将来の夢を語りました。二人の料理人と一人の音楽家が。
別れも惜しみましたが、それより3人とも希望に満ち溢れていました。
つづく
*この記事は、僕の修行時代のことを書いています。