~ 第50章 言葉を“感じる”こと ~ <僕の料理人の道>
みんな、真剣でした。それぞれが己の限界を超えようとしているかのようでした。
僕も負けてられません。
そして…、準備が終了。いよいよ盛り付けに入ります。
みんな自分のポジションに並んで積み上げた更に料理を盛っていきます。まるでベルトコンベアのように皿が右から左へと流れ正確に料理が盛られていきます。
300枚のお皿にいかに早く正確に料理を盛り付けるか。
シェフの怒鳴り声がより一層大きくなり、容赦なく早口のフランス語が飛び交います。
この中で僕だけが外国人…。
そんなことはすっかり忘れていました。いえ、忘れなければいけませんでした。早口のフランス語を聞き取るだけで大変でしたが…。
実は、聞き取れずに僕の耳を右から左へ過ぎ去った言葉も少なくありませんでしたが、いちいち、「今なんて言った?」なんて聞きなおせる状況ではありませんでした。
正確には僕以外にもう一人外国人がいました。彼の名はジョルジュ。ドイツ人です。僕から見れば、同じヨーロッパのしかもすぐ隣の国からやってきた彼を外国人とは思えません。
今まで、レストランでも忙しくなってくるとみんな早口になって言葉を聞き取るのが大変になりますが、それでも毎日繰り返している仕事の中でのことです。ある程度推測も出来ます。
今回のように場所も勝手もやることも違う状況は僕にとって非常に厳しいものでした。
「集中して…。言葉を聞いてから動くんじゃない、みんなの仕事を見て先読みして動くんだ。」
フランスへきて2年が過ぎました。多少の会話は出来るようになっていましたが、今でも言葉の壁は僕の前にときどき立ちはだかります。
それでも、言葉を“感じる”ことを覚えました。
つづく
*この記事は、僕が修行していた時代のことを書いています。