~ 第40章 ランスブール ~ <僕の料理人の道>
しかも、今度のレストランはアルザスにある「l’Ansbourg」(ランスブール)。ミシュラン2ツ星のレストランです。そして、今、アルザスでもっとも3ツ星に近いといわれている有名店です。
フランスで再び働けるだけでも幸運なのに有名店で働けるなんて夢のような気分でした。アルザス地方には是非行きたいと思っていたので願っても無いチャンスです。すぐに出発しなければならないので早速荷造りをして出発の準備を整えました。出発当日、前回と同じく関空に行きました。あの時と同じくらいわくわくしていました。不安は全くありません。
そしてシャルル・ド・ゴール空港に到着…
再びフランスの地を踏んだのです。
前回と同じく早朝でした。
早速、パリを経由してアルザスのストラスブールに向かいました。迷うことなくストラスブール駅に着くと青いワーゲンが僕を迎えに来てくれていました。僕をランスブールに紹介してくれた日本人の知人とのっぽのフランス人です。こののっぽのフランス人はミッシェルといい、このレストランのスー・シェフ(副料理長)です。彼はまだ29歳。ランスブールには9年も勤めているそうです。約1時間ほどの道のりですが恐ろしいほど山奥に入っていきました。ブルゴーニュのレストラン「オーベルジュ・ド・ラトル」も山の中でしたがここも負けてはいません。この日は、レストランの休日でした。ミッシェルは休日なのにわざわざ迎えに来てくれたのです。ただ、彼は口数が少なくあまり笑いませんでした。まじめな“ドイツ人”のような感じです。
彼はフランス人です。でもここアルザスは、隣はすぐにドイツです。言葉はドイツ語のようなアルザス語も使います。ここに生まれ育ったミッシェルはそのせいかドイツ人気質のような印象がありました。
ランスブールは僕が今までにフランスで働いた宿泊設備付の“オーベルジュ”ではなく一軒家のレストランでした。ただどこまでがこのレストランの土地か分かりませんでしたが広大な庭があり...、庭というか平原の中にレストランがあり、その平原には小川も流れていました。
そしてレストランの建物は堂々としていて風格があります。
「明日からここで働くのか。楽しみだな。」
部屋へ案内されて荷物を広げると、レストランの周りを散歩しました。周りには何にもありません。ただただひたすら山でした。日本人の知人に話を聞くとエピスリー(食料が売っているお店)と郵便局まで約5km。バス停までは10kmあるとのこと。これまた大変なところへきました。
フランスの地方にある有名レストランは大抵ランスブールのように辺鄙なところにあります。美食好きのフランス人は美味しいレストランがどこにあろうとわざわざやってくるのです。日本のような立地で悩むことなんぞありません。
さすが美食の国、フランスです。
ますますフランスが大好きになりました。
つづく
*この記事は、僕が修行していた時代のことを書いています。