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料理人の休日

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~第32章 片目のモロッコ人~  <僕の料理人の道>

ルームメイトのモロッコ人は片目でした。

彼は同じ外人の僕に親近感を持ったのか部屋に帰るとビールを持ってやってきました。とても優しそうで話しやすい人です。彼はモロッコから8年前にフランスへ来て数年前からこのレストランで働いているとのこと。結婚もしていて奥さんも子供もいるらしい。でも奥さんはモロッコで子供と一緒に暮らしているようです。

「なぜ、一人でフランスへ?奥さんと子供は連れてこないの?」

僕の素朴な質問に彼は、“出来ればそうしてるよ。”といった感じで答えました。

「いつか、家族一緒に暮らす為に俺は今フランスで頑張って稼いでいるんだ。俺の家は貧しいから出稼ぎをして仕送りをしないと生きていけない。もう少し頑張れば妻も子供もフランスへ呼べる。あと、少しなんだ。」

貧しい国の人が出稼ぎをして国に残してきた家族に仕送りをする、いつか家族と一緒に暮らすために…。

聞いたことはあるけどそんな人が実際に目の前にいる。このフランスへ、生きる為に来ている彼と料理の修業に来ている僕とでは気迫が違う。

彼は優しい口調で話していましたがその言葉には力強い生命力を感じました。
彼の片目はフランスへ来た最初の頃、職場のフランス人にいじめられて失ったそうです。それでも彼は国に帰らず家族を守る為に、生きていく為にフランスに残りました。そして今、ここで皿洗いをしています。彼は、サラモラ氏(このレストランのオーナーシェフ)が俺を拾ってくれた、とシェフにとても感謝していました。
彼は、こんな事情があるなんてとても信じられないくらい明るく、片目を奪ったフランス人を憎むことなく生きています。毎日、全力で皿洗いをしています。

僕がなぜフランスへ来たかなんてとても彼に話せるようなスケールではないなと、このとき完全に気迫負けしていました。それでも聞かれたので細々と話してみると彼は、「頑張れよ。きっといいシェフになれるよ。」と励ましてくれました。

彼の“頑張れよ”という言葉は僕にとって重く深く心に響きました。



つづく


*この記事は、僕が修行していた時代のことを書いています。
by le-tomo | 2006-04-19 23:32 | 僕の料理人の道 31~40章
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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