~第30章 オーベルジュ・ド・ラトル~ <僕の料理人の道>
今度の修行先はヨンヌ県のキャレレトンベ村にあるミシュラン一つ星のレストラン、“オーベルジュ・ド・ラトル”というレストランです。駅に到着すると一人の女性が僕を迎えに来ていてくれました。彼女はすぐに僕を見つけ車に乗せ走り出しました。彼女はシェフの奥さんだということは最初の挨拶ですぐに分かりました。僕を乗せた車はどんどん山の中へ入っていきます。“本当にこんなところにレストランがあるのか”と心配になるくらいです。そして4~50分走らせたところでようやく一軒の建物が見えてきたのです。これが今度の修行先“オーベルジュ・ド・ラトル”です。
レストランに着くとちょうどランチタイムが終わったところでみんな休憩に入る準備をしていました。シェフが出てきて挨拶をするとウェイティングルームのようなところに座らされシェフと一緒に少し話をしました。どうやらここのシェフは外国人を雇うのは僕が初めてらしいのです。
30分くらい話をしたでしょうか、シェフはスタッフの一人を呼んで僕を寮に連れて行くよう指示し、彼について僕はこれから寝泊りをするアパートへ向いました。アパートに着くとルームメイトが2人いて一人はソムリエ、一人は洗い場のモロッコ人でした。
早速荷物を置き、ちょっとホッとしたところでルームメイトの2人が僕の部屋に来ていろんなことを聞かれました。初めて見る日本人が珍しかったのでしょう。
ディナーが始まるということでソムリエが僕を一緒にレストランまで連れて行ってくれました。すでに厨房では仕込みが始まっていましたがこの日はただ見ているだけでした。流石に星が付いているせいかスタッフが前に働いていたところの倍くらいいます。調理場だけで12~3人はいたでしょう。それでも客席がほぼ満席になるこのレストランの厨房はめまぐるしく忙しそうです。
“こんな田舎なのにどうしてこんなにたくさんのお客さんがくるのだろう”
プロヴァンスにいたときも田舎でしたが自転車で10分も走れば駅のある町にでました。でも、ここは到底町など近くになさそうな山の中です。フランス人とは美味しいものを食べる為なら労力を惜しまないのでしょうか。驚きました。
そして、初日があっという間に終わり後片付けを始めた頃、シェフが僕に寄ってきて「俺は茸料理がスペシャリテなんだ。ここには素晴らしい野生の茸がたくさんある。この時期に来て良かったな。」と、自分の得意料理の話をしました。秋は野生の茸がたくさん出回ってジビエの美味しい季節なのです。
明日からはどのセクションで働かせてもらえるのだろうか。ワクワクします。
つづく
「オーベルジュ・ド・ラトル」
*この記事は、僕が修行していた時代のことを書いています。