~第28章 100件目のレストラン~ <僕の料理人の道>
「・・・。」
「トモ、ここへ行くの?」
「えっ!行けるの?」
僕は急に嬉しさがこみ上げてきました。“やっぱり、OKの返事だ。”
ジョフレイは手紙の内容を簡単に僕に説明した後、「お母さんに見せてこよう。」といってマダム・ポマレードのいる部屋に走っていきこの手紙をマダムに渡しました。マダムもこの吉報をすごく喜んでくれ、すぐに連絡したほうがいいとこのレストランに電話をしてくれました。
ただ、ジョフレイは遊び友達が一人減るので少し寂しそうな感じでした。彼とはよく休みの日に遊びました。特に剣道を教えたことをよく覚えています。剣道は中学生の時、体育の授業で少し習っただけなのでいい加減なものですが、ジョフレイは真剣に聞いてくれました。
こうして僕は100件くらいのレストランに手紙を出してやっと1件、僕を雇ってくれるレストランを見つけたのです。場所はシャブリという白ワインで有名なヨンヌ県にある一つ星のレストランです。出発は2週間後。
ディナーの仕込みが始まる時間、シェフが来るとすぐにこのことを報告するとシェフは僕に
「よかったな、トモ。じゃあ、あと少しだけども今日から俺と一緒にストーブ前をやろうか。」
と言ってくれました。ストーブ前とは魚や肉を焼くセクションです。かなり高等な技術を要します。
フランスへは、もちろん料理の勉強に来たのですが、初めて外国で生活をして異国の人間とふれあうことで料理以外にもたくさん勉強をさせてもらいました。こんなに温かく言葉の分からない日本人の僕を受け入れてくれたマス・ド・キュル・ブルスのみんなには感謝の気持ちで一杯です。
最後の2週間は特にいろいろありました。
オーナーの家族みんなで映画に行ったり、シェフと卓球の決着をつけるべくシェフの奥さんを立ち合わせて試合をしたり。
こんなこともありました。
受付の女性スタッフが3歳の子供を職場に連れてきたのですが、1時間だけ見ていてくれと僕に預けたのです。僕は日本人の子供も面倒みたことないのであせりましたが1時間だけのことだからと了解しました。その子が好きだという絵本を渡されてそれを読んであげることになったのですがどうやら僕のたどたどしいフランス語じゃ満足せず絵本を子供に取り上げられ逆に僕がその子に読んでもらう羽目に…。
ノエミのうちに行って僕が腕を振るって夕飯も作りました。
アプランティ(見習い)のヨアンヌの親がお世話になったからといって僕を夕飯に招待してくれてお別れ会を開いてくれたりもしました。
最初の修行先がここで本当によかったと心のそこから思いました。
そして、とうとう最後の日を迎えました。
つづく
*この記事は、僕が修行していた時代のことを書いています。