~第27章 手紙とペンだこ~ <僕の料理人の道>
このレストランではオードブルを任されるようになりみんなとも打ち解けて、思うようにフランス語で話せないものの相手の言っていることはなんとなく分かるようになっていました。
“そろそろ、次のレストランを探し始めようかな。”
そんなことを思うようになっていたのです。そこで、このことをオーナーやシェフに話しました。日本から修行に来ていてそんなに何年もフランスに居れないことをみんな知っていたので快く協力してくれることになりました。みんなに手伝ってもらいながら履歴書と職務経歴書を書いて、フランス語で手紙を添えてミシュランから希望のレストランを20件リストアップし投函しました。次に僕が選んだ地方はブルゴーニュです。ワインで有名なブルゴーニュ地方には素晴らしいレストランがたくさんあるのです。僕自身ブルゴーニュのワインが一番好きなのでまだ、行き先が決まっていないのにワクワクしていました。
手紙を出してから1週間...、一通も返事が来ません。
そう簡単に日本人を雇ってくれるレストランなど無かったのです。簡単ではないことは分かっていたのですが一通も返事すら来ないなんてショックでした。でも、落ち込んでいるわけにはいきません。すぐにまた、別のレストランを20件リストアップして手紙を書きました。僕は全ての書類と手紙をコピーやワープロではなく手書きで書いていました。
そして祈りを込めてポストへ…。
ついに3日後、僕宛に電話が来ました。そうです、先日、手紙を送ったレストランからだったのです。オーナーのマダムが飛んできました。
「来たわよ、トモ!レストランからよ!」
「どうする?私が代わりに聞いてあげるわ。」
と僕の返事も待たずに、言葉に不安のある僕の代わりに話を聞いてくれました。
すると、その電話はものの30秒もしないうちに終わり、マダムは受話器を置きました。僕はすぐに察しました。
駄目だったんだと...。
次の日、一通の手紙が届きました。レストランからです。その手紙を手にし、祈るように封をあけ一枚だけ入っている手紙を読みました。目の前に辞書を置いて。
...また、駄目でした。
それっきり、1週間経っても一通も返事は来ませんでした。これで1件に対し3枚の紙を書いていたので合計で120枚の手書きの紙が何の意味も持たず消えていったのです。僕の右手には包丁だこと一緒にペンだこが出来ていました。
つづく
*この記事は、僕が修行していた時代のことを書いています。