~第16章 いざ出発!~ <僕の料理人の道>
嬉しくてたまらない気持ちでした。出発は2週間後。
まずは、親に報告。そして、フランス行きの航空チケットの手配。チケットは先輩のアドバイスで1ヶ月オープンの往復チケットを購入。これは万が一何かあっても、もしくはくじけても1ヶ月以内なら帰国できるようにとのこと。パスポートはいつでも行けるように取得済み。
そして、荷物の整理。
電話があってからたったの2週間後の出発。ドタバタと準備を進めました。僕は海外へ行くのはもちろんのこと、飛行機に乗るのも生まれて初めてでした。こんな僕がいきなりフランスへ修行に行くことを両親は不安に思っていたでしょうが顔には出さず、快く行っておいでと言ってくれました。
一つ、大事なことを忘れていました。僕はフランス語が話せないということ。フランス料理店で働いていたので食材の名前は多少分かりましたが会話となるとほとんど出来ません。あまりの急な出発でそのことをすっかり忘れていました。でも、今更あがいても数週間でフランス語が話せるようになるわけでもないし、行けば何とかなる。結構、安易に考えていました。
僕が向かう先はアヴィニヨン郊外の“リル・シュール・ラ・ソルグ”という小さな村にある「マス・ド・キュル・ブルス」という名のオーベルジュ。
僕は毎晩のように想像しました。プロヴァンスにあるオーベルジュの調理場で働く自分の姿を。
そして、フランス人に囲まれて料理を作る自分の姿を。
以前、川上のぶさんに言われた「フランスでの修行は甘くない」という言葉をすっかり忘れていました。いえ、忘れていたわけではないのですが気持ちが高ぶっていて何とか乗り切ってやると思っていました。全く不安が無かったといえば嘘になりますがなぜか自信がありました。それも、今までの過酷な修行経験のおかげでしょうか。
出発当日、関空に向かいながら今までを振り返りました。高校を卒業して大阪の調理師専門学校へ進み、初めてフランス料理というものを目の前で見て感動しフランス料理の道に進む決心をしたこと。最初に修行したレストラン「オー・ミラドー」での辛い修行でくじけそうになったこと。京都のレストラン「ラ・ヌーベル・フォンテーヌ」のシェフに惹かれフランスで働くことに憧れ夢見たこと…。
そして、一本の電話がその夢を叶えようとしていること。
今、まさにフランスへ渡って自分の腕を試し、感性を磨こうとしています。
当時僕は24歳でした。
つづく
*この記事は、僕が修行していた時代のことを書いています。