~第2章 父の西洋料理書~ <僕の料理人の道>
その料理書は荒川西洋料理という西洋料理書だったのです。小さい頃から料理人になりたいと思っていた僕はその本をわけも分からず読みはじめました。フォン・ド・ヴォー?ソース・ベシャメル?当時の僕には聞いたこともない横文字ばかり。今までハンバーグやエビフライなどを出すいわゆる洋食屋さんになりたいと思っていた僕ですがその本を手にした時から本格的な西洋料理を勉強したいと強く思うようになったのです。
「そのためには田舎ではダメだ、都会の調理師学校に行って基礎を学びたい。」
もともと大学には行く気がなかったので進学校ではなく商業高校に進み、人気TV番組“料理天国”で料理を監修していた大阪の調理師学校に行きたいということを親に話しました。父は反対はしませんでした。でもマイホームを買ったばかりでローンを抱えての入学金や学費は大変だったのでしょう。父は仕事に行く前に朝4時からアルバイトをして入学金を貯めていたそうです。父は全くそのことを僕には言わず、何年も後に母から聞かされました。そんな父の苦労も僕は全く知らず希望と夢を背負って田舎を出ました。
当時18歳。
なぜ、和食の板前なのに西洋料理の本を持っていたのか父に尋ねたことがあります。
「若い頃、西洋料理を勉強したくて貯金を全てつぎ込んで買った。」
そう言いました。その時、父の若い頃の夢を少し託されたような気がしました。
つづく