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料理人の休日

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電話ボックスの中の僕。

夜道を散歩するには気持ちのいい季節になりました。

○○銀座という、東京ならどこにでもあるような商店街のネーミング。
僕の住んでる町にも銀座の名のつく商店街があります。

大きな川があって、大きな橋があって、
そこから右斜めに入ると、その商店街があります。
その商店街の出口付近に、今時めずらしい「電話ボックス」が、
暗闇にふんわり浮き上がるように立っていました。

その電話ボックスを見て、僕は、
「そういえば、料理の世界に入ったばかりの見習いの時、
寮の近くの電話ボックスから父親に電話したことがあったなあ。」
と、夜遅く、暗闇の中、父親に電話したことを思い出しました。
まだ、携帯電話が無かった頃です。

「お父さん。もう、耐えられん。」
あまりの修行のつらさに弱音を吐いた時でした。
「いいよ、帰って来い。でも、二度と包丁を持つなよ。」
この言葉は僕の胸を突き刺し、僕は、逃げ出すことを躊躇しました。
料理人はやめたくない。子供の頃からの夢だから。

そして、数日後、シェフに呼ばれました。
僕の母からシェフ宛に手紙が届いたようです。
「智寛を、もっと厳しくしごいて下さい。」
シェフは、僕に言いました。
「小川。お前、ガルド・マンジェのシェフやれ。」
当時の僕には荷が重過ぎる責任で、つぶれそうでした。
ここからは逃げ出したいけど、料理人は続けたい。
そんな甘い考えでしたが、それを父は許しませんでした。
母は、僕を厳しく追い込みました。深い愛情を持って。
僕は、二度、血を吐いて倒れました。

両親の厳しさと愛情。
おかげで僕は一度も逃げ出すことなく、今でも料理人を続けています。
自分のお店も持ちました。

誰でも逃げ出したいときはあります。
その時、周りに誰がいるかで、その後の人生は大きく変わるんだ、
ということを、電話ボックスを見て思いました。

電話ボックスの灯りは、ほんのりと暗闇に浮かんでいました。
by le-tomo | 2012-07-09 14:23 | 考えたこと、想うこと
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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