~第5章 ギャルソン時代 後半~ <僕の料理人の道>
ある日、シェフソムリエの先輩から「ロアラブッシュでワイン会があるんだけどお前、行ってこいよ。俺の後輩がいるから言っといてやるよ。」と言われ、同期の仲間と2人でドキドキしながら行くことにしたのです。
そのワイン会は作り手の違うムルソーの飲み比べでした。当時のシェフ大渕氏によるスペシャルコースも提供されました。会費は2万円。今、考えるとお得な価格だと思うのですが当時、僕の月給は6万円。2万円は相当痛い出費です。
シェフソムリエによるワインの説明を必死に聞きながら、作り手まではとても覚えられそうにないムルソーという村の黄金色のワイン7種類を目の前にして、なぜこんなにも味が違うのだろう、とワインの面白さを実感しはじめていました。その時、一人の若いソムリエさんが僕に、「どのワインが一番好きですか?」と話しかけたのです。思わず僕は美味しいかどうかは分からないけれども一番印象に残った左から2番目のワインを指し「これです。」というので精一杯。当然、コメントなんて出来ませんでした。若いソムリエさんは一言「素晴らしいチョイスです。」と言ったのです。なんだか、その一言で嬉しくなってしまいました。
後日、ロアラブッシュから僕宛に小包が一つ届きました。びっくりして箱を開けると手紙と一緒に白ワインが1本入っていて、その手紙には“あなたがワイン会で一番気に入っていたワインを送ります。頑張ってください。相山”と一言。あの時の若いソムリエさんだということはすぐに分かりました。そして彼が先輩のシェフソムリエの後輩の方だということも。
そのワインの名は“MEURSAULT Clos de La Barre Domaine des Comte Lafon " 「ムルソー、 クロ・ド・ラ・バール、ドメーヌ・デ・コント・ラフォン」
もちろん、僕はそれからムルソー好きです。そして、相山さんは今、平塚で“ブラッスリー・H&M”をオープンして頑張っています。
それからも、いろいろな大先輩の方々とお会いしました。
当時西洋銀座ホテルの鎌田総料理長、アルポルトの片岡シェフ、アピシウスの当時の料理長高橋氏、世界一のソムリエ田崎氏など...。
その方々のお話は僕には全てが感動でした。
そして、念願の調理場へ...
つづく
*この記事は、僕が修行していた時代のことを書いています。