『僕らは古代ギリシアに恋してる。・・・エリック・サティをめぐる音楽と料理の冒険』報告記 その4
未知なる可能性のかたまりのような音楽でした。
僕は何かを感じながらも、
それが何なのかは分かりませんでした。
隣にすわっていた友人が突然、ぼそっと言いました。
「小川シェフ、エルブランシュにKY をお呼びして、
音楽食事会やるのって、いかがですか?」
実は、彼は、KYのふたりと仲の良い友人でした。
僕は、そのアイディアに驚き、
一瞬なんと答えていいかわかりませんでした。
が、たしかにエルブランシュにお客様が集まり、
彼らが彼らの不思議で創造的な音楽を演奏し、
僕が料理をふるまう光景を想像すると、
それはいかにも楽しそうな光景でした。
しかも友人は、「ねぇ、小川シェフ、
いい企画じゃないですか、
ちょっとお願いしてみましょう。」
と、たいそう乗り気です。
僕もだんだんわくわくしてきました。
そこで、友人が話をもちかけ、
彼らは、この突然のお願いにこころよく承諾してくれて、
そこでKYと僕によるセッション食事会が実現する運びになりました。
その後、KY のふたりと僕と、仲をとりもつ友人とで打ち合わせをして、
タイトルは決定しました、
『僕らは古代ギリシアに恋してる。
・・・エリック・サティをめぐる音楽と料理の冒険』
日程は、2008年10月28日@エルブランシュ。
「エリック・サティ」という(古代ギリシアを愛した)作曲家をいわば仲人に、
KYは音楽で、僕は料理で、それぞれの想像力と表現力をふりしぼり、
ひとつの世界(古代ギリシアへの夢)を創り出す、
そんな主題の食事会です。
さて、日程が決まってから僕は、
CDでエリック・サティの曲を聴き、
(ふうがわりなタイトルのふうがわりな曲ばかりでした!)、
そして僕はイメージしました、
シクルハットと燕尾服の気難しそうで皮肉なユーモアをそなえた作曲家が、
コウモリ傘を抱えてパリの街をうろつく姿を。
そして、その彼のイメージする古代ローマを。
同時に、僕は、そのサティをサックスとエレキギターで演奏する
KYのイマジネーションを感じながら、
遥か二千年前の地中海を想像し、
僕なりの表現力で古代ギリシアの料理を再現しました。
「わたしは白い食物だけを常食する」
とうそぶいていたエリック・サティのために、
僕は白い料理もいくつか考えました。
そして同時に僕は、KYのふたりの音楽に潜む、
未知なる可能性を、僕のなかにも見出そうとしました。
そう、この食事会は僕にとって、
僕の中の可能性を見出すための修練のようにも思えていました。
この食事会が終わったとき、
僕には、新たに光り輝く可能性が見出せるのでは・・・。
それは僕にとって「冒険」でもあり、
「希望」でもありました。
しかし、同時に、不安もまたありました、
ほんの少しではありましたけれど。
つづく