『僕らは古代ギリシアに恋してる。・・・エリック・サティをめぐる音楽と料理の冒険』報告記 その3
いよいよ、KYの演奏がはじまりました。
エレクトリックギターと、そしてアラブの楽器、ウードを演奏するのは、
フランスのブルターニュ出身のヤン・ピターさん。
そしてサックスフォンとクラリネットを演奏するのは、
日本人女性の仲野麻紀さん。
ギターのヤンは、
トムソーヤの冒険の主人公、トムソーヤみたいな感じの、
ひょろっと背の高い、やんちゃそうなフランス人男性です。
サックスの仲野さんは、
一見、美少年のような、外人のような、
ちょっとハスキーな声がセクシーな日本人女性です。
歪んだ音とクリーンな音を混ぜ合わせたようなギターの音色、
枯れた感じの音を、ときには力いっぱい、ときには静かに、
波打つように奏でるサックスの音色。
僕は、そのとき、はじめてKYの音楽に触れました。
なんて、激しい音色なんだろう。
なんて、穏やかな演奏なんだろう。
なんて、神秘的なんだろう。
トルコとか、アラブとか、インドとか、
そんな中東の音楽ような感じにも聞こえるし、
(僕は中東の音楽を知りません。ただの想像ですが。)
はたまた、JAZZのような黒人音楽のようにも聞こえます。
これが、フランスの作曲家、エリック・サティの曲?
僕は、そのときエリック・サティという作曲家を知りませんでしたが、
少なくとも、クラッシック音楽には聞こえませんでした。
それは、彼らKYの演奏によるものなのか、
エリック・サティの作曲によるものなのかは分かりません。
僕はKYの音楽を聞いて、体が震えました、
はじめて聞いたKYの音楽に。
それはまるで、
僕がブルターニュのレストランで働いてたときにつくっていた
「ラングスティーヌ(手長海老)とリ・ド・ヴォーのパイ包み焼き」
海と大地という、全く違う環境で生まれ育ったふたりが、
パイ生地で包むことで、ひとつになって完成する料理。
まだ大人になりきっていない、子供の牛にしかない胸腺肉、
リ・ド・ヴォーはヤン。
大人になるとなくなってしまう、少年のやんちゃなで純粋な心を、
彼は今でも大切に持ち合わせています。
一方、ラングスティーヌはスマートで透き通るような殻(肌)をもち、
軽く火を入れると柔らかく甘く、セクシーで美味。
そんなサックスプレイヤー仲野さん。
ふたりが、ひとつの、価値観というパイの中で、
お互いの個性を大事にしながら焼きあがり、
ステージというお皿の上で、
銀のナイフでそっと、そのパイが開かれたとき
熱々の湯気と一緒に、エネルギッシュな香りと風味が、
聴いている者の五感を刺激します。
この料理は口に運ぶたびに、
パイとラングスティーヌとリ・ド・ヴォーのバランスで、
さまざまな風味で楽しませてくれます。
一口目は、ラングスティーヌの味わいが、
サックスフォンの波打つような音のようにのどを通り、
二口目には、リ・ド・ヴォーの柔らかい食感が、
なめらかなギターのメロディのように、
いつまでも口の中に心地いい余韻を残します。
ソースはもちろん、エリック・サティ。
どこか掟やぶりな、チャーミングなソース。
kyはエリック・サティソース以外にも、
このすばらしいパイ包み焼きを楽しませるソースを、
いくつか持っているようでした。
「パイ包み焼きなんて古くさい」と思われるかもしれませんが、
この料理は、いつの時代になっても忘れられない美味しさがあります。
それに、中身はそれぞれ料理人の創造力で、
自由にコンビネーションできます。
パイの形も大きさも料理人が自由に表現できる料理です。
そう、kyの音楽は、
まさに自由な創造力と表現力、
そして未知なる可能性のかたまりのような、そんな音楽でした。
つづく