父と僕とトマトの話 第三話
僕と父とはほとんど会話はありません。
父のナビにしたがって、
ハンドルを右へ切ったり、左に切ったり、
ブレーキを踏んだり、ギアをチェンジしたりと、
僕は大忙しです。
手には汗がじんわりとにじみ出ています。
福井の三月は、まだまだ寒い季節です。
ちょっと時間がかかってしまいましたが、
無事、三国に着きました。
僕と父はしばらくのあいだ海を見ました。
あのときと、なんら変わりありません。
同じ色のコンクリートの地面...
深い緑色とだんだん濃くなる青色の海...
海草の香り...
干物のにおい...
小さく「ぱしゃっ」となる波の音...
等間隔に並ぶ釣竿...
同じ光景、同じ香り、同じ音。
ただ、今は僕が車を運転をして、
父が助手席に座っていることだけが違いました。
なんだかオトナになった気分でした。
あのころから何も変わってないこの海に、
十八歳になった僕が、車を運転して父を乗せてきたことが、
僕にとって、オトナへの第一歩でした。
海まで来たのですっかり満足した僕には、
もうすることはなにもありませんでした。
あとは引き返すだけです。
帰るときに、夕日がきれいでした。
つづく