父と僕とトマトの話 第一話
そんな体験はありませんか?
たとえばプティットマドレーヌを食べてむかしの記憶をおもいだす、
そんな有名な小説があるそうですね、
(僕は読んでいませんけれど)。
僕の場合は、トマトでした。
トマトが僕のむかしの記憶を思い出させてくれました。
僕の故郷、福井県にある、白方町のトマト畑で、
ピンポン玉くらいの大きさの真っ赤なトマト、
そのトマトを口にした瞬間、
僕は、十八歳のころの自分の思い出が、
突然フラッシュバックしてきました。
あの頃、僕は十八歳で、
運転免許をとりたてでした。
僕は、運転免許を手にしたその日から、
車を運転したくて、したくてたまらなくなっていました。
僕は、すぐに父の車、
白いパルサーを貸してくれと、父に頼んだもの。
父はこころよく承諾してはくれたものの、
ただし、危ないからといって、
自分が助手席に同乗するという条件付でした。
「さぁ、どこへ行こうか。」
車に乗ったはいいものの、行き先も決めてないし、
道も全然分かりません。
僕には、家から学校までの道順くらいしか
思いつきませんでした。
父が僕に提案しました。
「ほんなら、三国にでも行くか。」
つづく