選んだ料理は
“真鯛のポワレ、野菜のマティニヨン入りブールブランソース”
まかないで真鯛は使えず与えられたメダイという魚で代用しました。魚料理の基本のソース“ソース・ブールブラン”。 いわゆるバターソースですがこれが思っていたより難しく、改めて基本の大切さを思い知りました。
まかないをみんなに配り、またいつものように怒られるか、まかないを捨てられるかするんだろうなと思っていたのですが、意外に支配人やスー・シェフも全部食べていたのに驚きました。そして、まかないが終わりディナーの仕込みに入るその時でした。
スー・シェフの稲葉さんが
「小川、今日のはなかなかうまかったじゃないか。」
と、一言。
その言葉を聞いた瞬間、急に何かがこみ上げてきて思わず涙がこぼれました。すぐにそれが嬉しさからだと分かりましたが。そして父のあの言葉が…。「もう、二度と包丁は持つなよ。」頭の中で響きました。頭が痛くなるくらい。
“やっぱり、料理人はやめたくない。”
強くそう思いました。やめるという決心を覆す決心。“もう、絶対逃げ出さない”と。いい加減ですよね。
そして、数週間後、勝又シェフに呼ばれて…
つづく
*この記事は、僕が修行していた時代のことを書いています。