料理人の休日

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~第87章 太陽の料理人~  <僕の料理人の道>

毎日のように世界中から、ドレスやタキシードを来た、
セレブといわれる人々がやってきて、
高額なシャンパンがどんどんあけられる。
そんな、エレガントなパーティーが毎晩のように行われる、
映画のようなレストランがここにありました。



僕はソースのベースにとなるフォン・ド・ヴォーを、
離れにあるもう一つの調理場へとりに行くとき、
裏口から見える駐車場に、
ベンツはもちろん、フェラーリやポルシェ、ロールス・ロイスなどの、
写真でしか見たことのない高級車がどんどん入ってくる光景を目にし、
まるで、ハリウッド映画にエキストラとして出演しているような気分になりました。
その状況の中、一瞬、呆然と立ち尽くし、
何をしようとしていたか忘れることも
しばしばありました。


これが、世界のセレブ達、
そして、ここがセレブ御用達の超高級レストラン...。
エレガントなカクテルドレスに身をまとった、まるで女優のような美女が、
タキシードを着たジェントルマンの手を借りて車からゆっくりと優雅に降り、
一言、「メルシー、ムッシュー」とささやくようにお礼をする。
今まで、いくつもの有名な高級レストランで働いてきましたが、
こんな、うっとりとするような光景を目にするのは初めてでした。

どれくらいたったのでしょうか、
僕は慌てて自分の仕事に戻りました。
そこは、さっき出会った光景とはまるで正反対。
調理場は戦場のようでした。




フォンド・ヴォーを入れた鍋を火にかけ、ソースを作りながら、
僕は思いました。
“今、ここで作っている料理をあのセレブ達が食べるんだ。”
そう思うと、俄然やる気が出てきます。
より味わい深く、より繊細に。
僕はあのドレスを着た女性と、彼女に手を差し伸べた紳士を思い浮かべ、
目の前の黒っぽい液体、フォン・ド・ヴォーを、
彼ら、彼女らのように輝くようなソースに変えることに集中しました。


太陽の料理人、ロジェ・ベルジェ、
彼の料理はどれも輝いていました。
それは、きっと、彼のレストラン、ムーラン・ド・ムージャンに来る、
まばゆいばかりに輝いているセレブな男女のため。

太陽の料理人、ロジェ・ベルジェ、
彼の作る料理は太陽のように輝き、
ドレスアップした美男・美女を照らし、
より輝きを与えるために、考えられています。


僕はこの太陽の料理を全力で学びました。
僕も、彼のような輝くような太陽の料理をいつか作るために。



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           <ロジェ・ベルジェ氏と>


つづく


*この記事は、僕の修行時代のことを書いています。
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by le-tomo | 2008-04-24 13:24 | 僕の料理人の道 81~90章

エルブランシュは、柳生さんの育てた仔羊を応援します。その5

柳生佳樹さんの育てた仔羊は、艶があって、明るい。
薄暗いところで見ると、肉が輝くんです。
肌の調子が艶やかで、綺麗で、臭みがまったくありません。
調理してみると、味が濃い。
フランス料理のしっかりしたソースに負けない
肉の味の深みと強さがあります。
それでいて乳飲みを終えたばかりの4ヶ月未満ならではの、
身の柔らかさ、ミルキーさも感じられます。
そのクオリティは、もはや
オーストラリア産仔羊の肉質を超えています。




柳生佳樹さんって、どんな人なんだろう、
と僕はがぜん興味を持ちました。
そこで僕はそれとなく業者さんに話を聞いたり、
ネットで検索したりして、
柳生さんのことを知ってゆきました。
柳生さんは、美深町の町外れの広大な農場で、
三百頭の羊たちを育て、そして
フランスにはむかしからある、羊のミルクを原料としたチーズに触発され、
さまざまなチーズを作り、
羊のミルクを使ったアイスクリームや
ヨーグルトの製造も行っておられるそうです。
はたまた広大な畑でじゃがいもを育てたり、
ときには樹液でメープルシロップを製造したり、
そんなふうにいろんなことをやっておられます。




僕は柳生さんの守備範囲の広さに驚きながら、
でも、一見すごく多彩な、それらさまざまな仕事の奥に、
柳生さんの、生き生きした関心が息づいていることが
感じられてくるのでした。
そう、柳生さんの仕事の根っこには、
ひとつの確固たる考えがあるのだとおもいます。
聞くところによると、柳生さんは、北大農学部の出身。
いつのまにか僕は、柳生さんに、
フランソワ・ユエさんの姿を重ね合わせていました。
そう、理想的な環境を選び、
理想的な交配を編み出し、
餌を工夫し、飼育しながらも野生が残る
飼育方法を模索し、
「樹の上で眠る黒い貴婦人のような」鶏ジェリンヌ・ノワールや、
優美で、なんともジューシーな、
最高の肉質のラカン鳩を育てる
そんなフランスワ・ユエさんの姿を。







そう、僕は、柳生佳樹さんに、
ユエさんに通じる考え、ユエさんによく似た人生の質を感じるんです、
一言で言えば、
「ゆたかな自然」と「創造性に満ちた飼育」の共生、
そしてその考えの実践なんだとおもいます。
こういう育て手の人が、日本にいてくださったことは、
僕をよろこばせ、すごく励まします。




今回エルブランシュは、
柳生さんの仔羊を、1/2頭買いました。
実は値段は、オーストラリア産の3倍以上です。
なるほど柳生さんの仔羊はあきらかに
オーストラリア産の仔羊よりおいしい。
肉質もすばらしい。
でも、正直に言えば、おいしさだけで言えば、
そこまでの違い、3倍までもの違いは、ないんです。
でも、あきらかにいま日本で調達できる仔羊のなかでは、
柳生さんの仔羊が最高においしい。
しかも柳生さんの仔羊は、値段は高いけれど、
それだけではなく、未来があります。
僕は、その未来への希望も含めて、
このオーストラリア産の3倍以上もする柳生さんの仔羊を
今回だけではなく、これからもずっと
買い続けていこうとおもっています、
エルブランシュの極上食材コースのために。




実を言えば、うちの場合、柳生さんの仔羊を買ってしまうと、
極上食材コースで税込み14700円をいただいても、
食材原価は50%を越えてしまいます。
ほんとうはこんなことばかりやっていては、店は潰れてしまいます。
でも、原価はメニュー全体で考えるものですから、
全体で馴らせばいいいのです。
しかも僕は、こういうとき迷わず極上食材を買えるように、
ふだんから広告も打たずメールとブログで告知するなど、
ほかのところでしっかり出費を抑えています。
だから、大丈夫です。
柳生さんの仔羊を買い続けることができます。






僕は柳生さんの仔羊を買うことがうれしいんです、
柳生さんの仔羊は、僕を励ましてくれます。
なぜなら、僕自身も「ニッポン人のフランス料理の料理人」です。
それでも、フランス人の一流のシェフに負けないつもりで、
毎日がんばって可能な限りおいしい料理を作っています。
そして柳生さんの仔羊も、ニッポンの仔羊として(!)、
ジンギスカン用のマトンとは別に、
フランス料理の世界で勝負する仔羊、
しかも世界最高のプレサレに負けない肉質を目指して、
がんばっています。
すでに肉質では、オーストラリア産の仔羊を抜いています。
このぶんでいけば、もしかしたら5年後、10年後は、
フランス料理の料理人にとって、
柳生さんの仔羊が、世界でいちばんおいしい、
そんな時代が来るかもしれません。




僕ら料理人は、おいしい料理を作る係です。
でも、いくら技術があって、センスが良くても、
すばらしい食材がなければ、すばらしい料理は絶対できません。
ですから僕にとって、柳生さんが大事なんです。
実は、僕が柳生さんを応援するのは、
まわりまわって自分自身を応援していることなんです。




がんばれ、自分!



そんな気持ちを込めて
エルブランシュは、美深町・松山農場の
柳生さんの育てた仔羊を応援しています。





*只今、極上食材コース、14,700円にて柳生さんの育てた仔羊をメインにしたフルコースをご用意しています。
数に限りがありますので、お早めにご予約下さい。
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by le-tomo | 2008-04-23 13:38 | エル ブランシュへ、ようこそ

エルブランシュは、柳生さんの育てた仔羊を応援します。その4

僕らフランス料理のシェフは、
2000年以降、農水省の神経質な政策によって、
モンサンミッシェルの仔羊・プレサレや
ボルドーのポイヤック村の乳飲み仔羊をはじめ、
フランス産の乳飲み仔羊がまったく買えなくなって以来というもの、
オーストラリア産やニュージーランド産の仔羊を
ずっと使い続けてきました。
たしかにオーストラリア産仔羊は、ジューシーでおいしい。
ニュージーランド産仔羊は、繊細な味わいでおいしい。
値段も順当で、部位ごとに買えます、
したがってこちらも使いやすい。
いずれも一流のレストラン・フレンチに見合う
立派な仔羊だとおもいます。



でも、プレサレやポイヤック村の乳飲み仔羊など、
フランスの仔羊肉の表現力を知っている料理人にとっては、
あの、赤ワインの濃いソースにまったく負けない
味の力強さと、それでいて併せ持った繊細さときめこまやかさを
忘れることができません。
しかし、繰り返しますが、日本でフランス料理を作っている限りは、
フランスの仔羊を使うことはできません。
そうなると、僕らにできる選択は、
オーストラリア産やニュージーランド産の仔羊を使い続けるか、
あるいはフランス産の仔羊に負けない質の仔羊を、
誰かに作ってもらうしかありません。





そんな僕らの煩悶に気づいた、ある業者さんがいました。
その業者さんは(僕らの気持ちを代弁するように)
北海道の羊農家の人たちに働きかけました、
ぜひフランス料理用の仔羊(4ヶ月以下)を作ってください、
そしていつの日かプレサレに負けない仔羊を作りましょう。
しかし、ラムやマトンの需要の大きさに比べて、
フランス料理用の乳飲み仔羊の需要はあまりに小さい、
しかも4ヶ月以下で落とすなど、育てる手間ばかりかかって、
その割に、それに見合う値段をつけにくい、
あらゆる点で割に合わないわけです、
ですから、羊農家の人たちは、誰もが、そんな話に
のってきてはくれませんでした。




そんななか、美深町(びふかちょう)という、
町の、とある羊農家の人が、
じゃ、作ってみましょうか、と手を上げました。
彼の名前は、柳生佳樹さんです。
柳生さんの農場は、
稚内と旭川の中間にある
美深町という町の、町外れにあるそうです。
冬は雪がしんしんと降り積もり、凍えるほど寒く、
短い夏は暑い、そんなところだそうです。
柳生さんは、広々とした牧場で、羊300頭を育て、
その上、フランスにはむかしからある
羊のミルクを原料としたチーズに触発され、
さまざまなチーズを作り、
羊のミルクを使ったアイスクリームや
ヨーグルトの製造も行っておられるそうです。







柳生さんは、ただたんじゅんにジンギスカン用の
羊をたんに若いときに落とすのではなく、
僕らフランス料理の料理人が欲しい仔羊を理解して、
最初の掛け合わせから考えて、
まさにフランス料理のための仔羊を作ってみましょう、
と、おもいたってくれました。
ちなみに世界最高の仔羊・プレサレは、
サフォーク種とグレヴァン種です。、
たしかにすばらしくおいしいけれど、ただし残念ながら、
繊細で、病気にかかりやすく、繁殖率が低いというリスクがある。
そこで柳生さんはまずオーストラリア産の羊ドゥーセットという、
元気に育つ種とカナダの野性味あふれる力強いロマノフという種に、
サフォーク種を掛け合わせ、
柳生さんの仔羊を育てることを選びました。





僕は、業者さんを通じて、
柳生さんの育てた仔羊を買いました。
僕は、その柳生さんの仔羊を見た瞬間、
一瞬で、いろんなことを感じました。
まず、柳生さんの育てた仔羊は艶があって、明るい。
薄暗いところで見ると、肉が輝くんです。
肌の調子が艶やかで、綺麗です。
小ぶりだけれど味の濃い肉質。
しかも皮の剥ぎ方もていねいで、肉に傷がまったくありません。
臭みもまったくない。
僕はその肉を見ただけで、松山さんが
どれだけこの仔羊をかわいがって育ててこられたかが、
伝わってきました。
さっそく調理してみると、
乳飲みを終えたばかりの4ヶ月未満ならではの、
身の柔らかさ、ミルキーさも感じられます。
このクオリティなら、
もはやオーストラリア産仔羊の肉質を超えています。







しかも柳生さんは言ったそうです、
「まだ掛け合わせたばかりですから、
ほんとうにサフォークの味は反映されてないでしょう、
あと2、3年たてば、だんだんサフォークらしさが出るでしょう。」
この言葉にも、僕は、柳生さんの正直と誠実を感じました。
なぜなら、僕は、修行時代に、
プレサレやポイヤックを使ってきましたし、
ですからその肉質も、味もよく知っています。
でも、「サフォーク種の味わいがどこまで反映しているか」
種の掛け合わせのバランスまでは、僕もわかりません、
ワインを飲んで葡萄の品種を感じるのとはわけが違って、
難易度は高く、早い話が、僕らだって、
言われてはじめて、そうか、とおもうような事柄です。
それでも柳生さんは言うわけです、
「まだ掛け合わせたばかりですから、
ほんとうにサフォークの味は反映されてないでしょう、
あと2、3年たてば、だんだんサフォークらしさが出るでしょう。」





そして僕は、柳生佳樹さんという人に興味を持ちました。
そこでそれとなく業者さんに話を聞いたり、
ネットで検索したりして、
少しづつ柳生さんのことを知ってゆきました。


つづく
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by le-tomo | 2008-04-22 12:59 | エル ブランシュへ、ようこそ

エルブランシュは、柳生さんの育てた仔羊を応援します。その3

僕ら料理人は、おいしい料理を作る係です。
でも、いくら技術があって、センスが良くても、
すばらしい食材がなければ、すばらしい料理は絶対できません。
ですから僕は最高の食材獲得に努め、
鴨ならビュルゴー家のシャラン鴨、
仔鳩ならフランソワ・ユエさんのラカン鳩、
バスク豚ならオテイザさんの育てたバスク豚を
選んできましたし、これからも使い続けるでしょう。
ところがフランス料理に欠かすことのできない食材、
仔羊については、
そこまで大好きな仔羊は、
残念ながら、僕にはありませんでした。




本来なら、僕はフランスの、
(海のなかにある修道院のあるモンサンミッシェルの!)
仔羊・プレサレや、
あるいはボルドーのポイヤック村の乳のみ仔羊を、
使っているはずです。
ところが2000年以降、日本の農水省の神経質な政策によって、
日本ではプレサレをはじめとする
フランスの仔羊全般を使うことができなくなりました。
ですから、僕は、やむなく、
ジューシーでおいしいオーストラリア産仔羊や、
小ぶりだけれども味わいが繊細で、おいしいニュージーランド産仔羊を
これまでずっと使ってきました。
値段も順当で、部位ごとに買えますから使いやすい。
いずれも一流のレストラン・フレンチに見合う仔羊だとおもいます。




でも、フランスの仔羊肉の表現力を知っている料理人にとっては、
あの、プレサレやポイヤック村の乳飲み仔羊の、
赤ワインの濃いソースにまったく負けない
味の力強さと、それでいて併せ持った繊細さときめこまやかさを
忘れることができません。
しかし、繰り返しますが、日本でフランス料理を作っている限りは、
フランスのすばらしい仔羊を使うことはできません。
もしもプレサレを知らなかったなら、
ポイヤックの乳飲み仔羊を知らなかったら、
僕はここまで煩悶しなかったでしょう、
でも、プレサレやポイヤックの乳飲み仔羊を知っている以上、
ついついじたばたしてしまうわけです。
プレサレを使えたらどんなにいいだろう、
フランスのすばらしい仔羊が使えたらどんなに幸せだろう、
と、ついおもってしまうわけです、
叶わない夢だとわかってはいますけれど。






あるときそんな僕らの気持ちに、ある業者さんが気がつきました。
その業者さんは(僕らの気持ちを代弁するように)
北海道のいろんな羊農家の人たちに働きかけました、
ぜひフランス料理用の仔羊(4ヶ月以下)を作ってください、
そしていつの日かプレサレに負けない仔羊を作りましょう。



しかし、なかなか、
そんな話にのってくれる羊農家さんを見つけることは出来ませんでした。
業者さんの話では、生後6ヶ月未満の仔羊は、
手間隙がかかるわりには、採算がとりづらいとのことらしいです。
生後6ヶ月以上のラム、もしくはもっと大きくなったマトンを
育てることで採算をあわせる農家さんが多いらしいです。




ところが、僕らフランス料理の料理人は、
4ヶ月以下の、柔らかくミルクの匂いのする仔羊こそが
欲しいんです。求める質がまったく違います。
しかし彼ら羊農家の人たちにとっては、
羊は6ヶ月までがいちばん手間がかかるそうです、
その後は、比較的安定して育っていくそうです。
それなにに、「さぁ、ようやく飼育の手間も終えて、
あとはのびのび順調に育ってゆくだろう。
さぁ、あとはたっぷり肥えていってくれ」、
となかば手が離れる段階で、もう絞めてしまうだなんて、
それでは、せいぜい12キロから15キロにしかなりません。
こんな馬鹿馬鹿しい話はないわけです、
彼ら羊農家の人たちにとっては。
もちろん彼ら羊農家の人たちはこんなふうにおもうわけです、
「では、仮にあなたたちの希望どおり4ヶ月で落としたとして、
では、あなたたちフランス料理のシェフたちは、
それをいったいいくらで買ってくれるますか?」
ちなみに肉は基本的に「1キロいくら」というふうに取引されます。
30キロ以上に育つマトンに対して、
12~15キロしかない4ヶ月以下の仔羊を
いくらで買ってくれますか?



逆に僕らにしてみれば、
実は、オーストラリア産ならば、
最高の仔羊をキロ3000円くらいから買えるんです、
しかも好きな部位だけ。きれいにカットされた状態で。
スジや余分な脂、骨は取り除かなくてはいけませんが。
そしてオーストラリア産の仔羊は、
使いやすくてジューシーでおいしい、
でも、さらにおいしい最高の、
プレサレやポイヤック村の乳飲み仔羊に負けない
表現力をそなえた肉質の仔羊を夢見るわけです。
もしも仮にプレサレがいま輸入できたと仮定するならば、
日本での値つけは、1頭、20~30万円程度でしょうか?





つづく
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by le-tomo | 2008-04-21 13:47 | エル ブランシュへ、ようこそ

エルブランシュは、柳生さんの育てた仔羊を応援します。その2

最高の食材だけを使って、最高においしい料理を作る。
それは僕の二十歳の頃からの夢でした。
僕が最初に修行に入ったのは、箱根のオーベルジュ・オーミラドー、
大きく立派なオーベルジュで、
スタッフが25、6人いましたから、
まかない用の食材を別に買っていました。
もちろんお客様には世界最高の食材を使うわけですが、
でも、まかない用の肉は冷凍肉やブロイラーでした。
しかもまかないには、ブイヨンも使っちゃいけない、
使っていいのは冷凍肉かブロイラー、あとは野菜と水だけ、
それがオーミラドーのルールでした。
しかも僕が一所懸命まかないを作れば、
怖い先輩たちにさんざんくさされるわけです。
「基本ができてないうちから凝ったことばっかりやるな。」
なんてことも言われましたし、
ゴミ箱に捨てられたことさえありました。
まだしもましなときは、こんな言葉をいただいたものです、
「まぁ、まずいことはないけど、じゃ、小川、この料理に
いくらの値段をつける?」




そんな頃、先輩の稲葉さんが(僕の不満を見透かすように)
こんなことを僕に言いました、
「小川、もしもおまえがブロイラーを使って、
誰よりもおいしい料理を作れるようになったなら、
もしもおまえがその実力を身につけたなら、
いつかブレスを手にしたとき、そのときは
最高の料理が作れるんだぞ。」
稲葉さんのその言葉は、当時二十歳の僕の胸に
焼きつきました。
ですから稲葉さんのその言葉を聞いてからというもの、
当時僕はブロイラーでまかないを作りながら、
いつか自分が料理長になったら、
そしていつの日か自分の店を持ったあかつきには、
最高のブレス鶏を使って最高においしい、
そう、夢のようにおいしい料理を絶対に作ってやるんだ、
と、おもったものです。
なにしろ当時僕は厨房に入りたてで、
まかないくらいしか作らせてもらえませんでしたから。




その後、日本で5年修行した後、
フランスに修行に出て、
フランス各地で星なしから三ツ星まで
いろんなレストランで働きました。
最初はフランス語もろくにわからないため
上司は14歳のフランス人だったりして
下働きうぃさせられましたが、
じょじょに地位も上がり、
店を替わるごとに、ポジションも上がり、
いつしかフォア・グラの捌き方をスタッフに指導したり、
店によっては、2番手を務めたりもしました。




あの頃フランスで学んだこと、覚えた技術は限りなくあって、
一言ではとうて言い尽くせませんが、
ただし料理にとって大事なことは、
適切な調理技術はもちろんですが、
負けず劣らず大事なことは、
つける値段の範囲で、可能な限り良い食材を選ぶ、
そして最高の食材を獲得するためには、
信用を獲得しなければいけません、
業者さんとや契約農家の人たちとの良好な関係の構築など、
見えないところでさまざまな努力があることを
あらためて知りました。
最高の食材を使うためには、まず
自分自身が最高の食材に見合う料理人にならなければなりません。





ですから僕も、日本に帰って来て、
料理長になってからは、なんとかして
可能な限り上等の食材を選んできました、
マダム・ビュルゴーのシャラン鴨、
フランソワ・ユエさんの仔鳩は8年前からのつきあいです、
もちろんそれら極上食材を獲得するためには、
緻密な原価計算が必要で、
ちょっとでも経営のバランスを崩すと、
極上食材を手放さなければならなくなります。
ですから僕は、当時雇われ料理長の時代に、
いつのまにか原価計算のやりくりも覚え、
業者さんの気持ちも考えながら、
それでいて舐められず、対等で友好的な関係を築くように
努力してきました。
もちろん自分の店、エルブランシュを持ってからは、
さらに完璧を目指し、すべての食材を吟味し、
それでいてなんとかほどほの価格に収まるように、
無駄な出費を抑え、奮闘してきました、
もちろんすべては最高の食材獲得のためです。





最高においしい料理を作るためには、最高な食材が必要、
とてもシンプルなことです。
ところが、いつのまにか、知らず知らずのうちに僕は、
それら最高の食材を作る「作り手たち」のことにも、
関心を持つようになっていました。
やっぱりまいにち使っていると、
そんな気持ちになるものです。
そう、ビュルゴー家のシャラン鴨や、
そしてフランソワ・ユエさんのラカン鳩を、
毎日使っているうちに、
僕は、自分に調理場の彼方で、
ビュルゴー家の人たちや、
フランソワ・ユエさんがつながっているように
感じるようになりました。
彼らが最高の肉を育て、僕が最高の料理を作る。
僕は、肉を通して、
彼らと会話をしているような気持ちになっていました。
そしていつしか彼らの考え、
交配、餌、飼育環境、飼育方法にも
関心を持つようになってゆきました。




とくに、フランソワ・ユエさんは、人間のタイプが独特です。
なにしろ彼はいくつかの飼育農家を渡り歩いた後、
あらためてフランス国立農学研究院に入学し、
家禽類の栄養と交配学を学び、
博士号を取得した人。
自分の農場を作るにあたっては、
自分の理想とする環境を探して、
フランスのあちこちを探し歩いて、最後に、
穏やかな気候、ゆたかな自然、
かすかに汐の匂いの混じった空気のする
ラカンの地を選んだそうです。





しかもユエさんは最高の肉質を求め、交配の実験を繰り返し、
餌を工夫し、飼育しながらも野生が残る環境を考え、
そしてフランソワ・ユエのラカン鳩、
そして「樹の上に眠る黒い貴婦人」、
ジェリンヌ・ノワール(鶏)を育ててこられました。
フランソワ・ユエさんは学者肌で、
ほかの養鶏家とは考え方やアプローチが少し違うように感じます。
おそらくユエさんには「ゆたかな自然」と「創造性に満ちた飼育」の
共生という考え方があって、
僕は、ユエさんをとおして、
フランスの畜産・農業文化のゆたかさと、
底力を見るおもいがしました。



日本にもこういう考え方をする、
養鶏家、養豚家、羊農家の人たちがいたなら、
どんなにすばらしいだろう。
それとも、僕がまだそんな人の存在を知らないだけだろうか?
その頃、僕はそんなふうにただおもいをめぐらせていました。







つづく
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by le-tomo | 2008-04-20 17:30 | エル ブランシュへ、ようこそ

エルブランシュは、柳生さんの育てた仔羊を応援します。その1

僕ら料理人は、おいしい料理を作る係です。
でも、いくら技術があって、センスが良くても、
すばらしい食材がなければ、すばらしい料理は絶対できません。
ですから僕は鴨ならビュルゴー家のシャラン鴨、
仔鳩ならフランソワ・ユエさんのラカン鳩、
バスク豚ならオテイザさんの育てたものを
これまでもずっと買ってきましたし、
これからも買い続けてゆきます。




僕は料理人ですから、僕が信頼する業者さんを通じて、
それらの自分が最高だとおもう食材を選んで買うだけです。
その作り手の人たちには会ったこともなければ、
電話で話したことも、
メールのやりとりをしたこともありません。
それなのに、僕は、毎日自分の選んだ食材を使っているうちに、
不思議なことに、いつのまにか、
自分の大好きな食材の作り手さんたちに、
したしい気持ちをもつようになっていました。



たとえば、
ロワール地方のシャラン村で、
ほとんど家族経営で、
代々、もう百何十年にわたって、
最高の鴨を作り続けてきた
ビュルゴー家の人たち。
最高の環境を求めてフランス全土を歩きまわり、
最終的にラカンの地を選び、
それ以来、きょうまでずっと、
「樹の上で眠る黒い貴婦人」ジェリンヌ・ノワールや、
それからその姿は優美で肉質も最高の仔鳩を育てている
学者肌のフランソワ・ユエさん。
自分たちがプライドをかけて作ってきた
バスク豚を守るために、
闘って、闘って、社会を動かし、
そしてそのすばらしいおいしさを
僕たち料理人に知らしめてくれたピエール・オテイザさん、
そして彼らをはじめとする養豚家の方々。



僕は彼らがかわいがってかわいがって育ててくれた
食材を手にすると、
よし、今度は僕の番だ、まかせてください、
最高においしい料理を作りますからね、
という気持ちになります。



僕の大好きな肉は、なんと言っても、
ビュルゴー家のシャラン鴨、
仔鳩ならフランソワ・ユエさんのラカン鳩、
バスク豚ならオテイザさんの育てたバスク豚です。
ところで、フランス料理に欠かすことのできない食材、仔羊、
実は僕には、それほどまでに大好きな仔羊は、
ありませんでした。







つづく
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by le-tomo | 2008-04-19 13:45 | エル ブランシュへ、ようこそ

完璧なる仔鳩 ~ラカン産仔鳩~

恋のABCなんていう言葉がありますけれど、
フランス料理にも、お勧めする順番があります。
たとえばフランス料理ビギナーのお客様には、
僕は、鴨をお勧めしています、
(鴨なら、鴨南蛮やなにかで、みなさんなじみがありますからね)。
そして鴨料理をよろこんでくださったお客様には、ウズラ、仔牛。
あるいは、フォア・グラか、仔羊。
さて、レストラン・フレンチ大好きなお客様に、
僕がぜひ食べていただきたいのが、
鳩料理なんです。




ところが、日本では鳩は不遇な存在で、
まず最初に、食べたことがない人が多く、
さらに悪いことは、
1990年頃まで日本には冷凍ものの鳩しか入らず、
冷凍ものの鳩はパサパサして、どうもいけません。
そんなわけで、鳩は、(ほんらいすばらしい食材なのに!)
ずいぶんと損をしています。



そう、ほんらいフレッシュで良質な鳩は、
ジビエであろうが、飼育ものであろうが、
それはそれはすばらしい夢のような食材で、
また料理人にとっても、鉄分たっぷりな、
しっかりした肉質を的確に調理し、
さぁ、奥行きあるしっかりした
どんなソースを併せようか、
野心が沸いてきます。




今回僕は、フランソワーズ・ユエ(Francois Huet)さんの作った
ピジョノー・ラカン(pigeonneaux racan)を
手に入れることができました。
そうです、以前「樹の上で眠る黒い貴婦人」ジェリンヌ・ノワールをご紹介した、
あの学者肌の家禽の育て手です。
彼の手がける鳩は、
ふっくらした、ゆたかな体を
真っ白なふさふさの羽で包んで、
その姿は美しく、優雅で、
それでいてどこか勇ましさもまた感じます。
肉質は柔らかく、ねっとりした食感、
鉄分を含んだ力強さ。
まさに完璧な味わいです。




さて、今回このユエさんの育てたピジョノー・ラカンを、
僕はていねいにロティして、
ソースにはバナナとカカオの風味を加え、
香ばしいアーモンドの香りもそえようかと思っています。
「え、バナナとカカオ!??」なんて心配しないでください、
ばっちりすばらしい料理を仕上げますから。
もちろん冷菜・温菜オードヴルから、魚も、デセールも
メインに見合った魅力的な料理を考え、コースの流れを整え、
極上食材のコース(14,700円)にてご用意します。




数に限りがありますので、ご予約はお早めに。
では、フランス料理好きのあなた、
エルブランシュでお会いできる夜を僕は楽しみにしています。





小川智寛
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by le-tomo | 2008-04-18 03:01 | 僕が選んだ極上食材
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東京のエルコーポレーションと福井のマイナーリバーズの2つの会社を経営し、エルブランシュのオーナーシェフをしています。


by le-tomo
line
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