料理人の休日

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カテゴリ:世界でいちばんおいしいごちそう( 18 )

世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その18

〈仕事ついての、もうひとつの考え〉、
続きを書きましょう。



考えてみれば、僕の料理も、
僕の料理観に応えてくれる業者さんや生産者の、
「僕のため、エルブランシュのための」
心尽くしとともに成り立っています。
たとえば野菜は福井にいる七人の農家の人たちが
エルブランシュのために育て、
ひとつひとつの野菜を新聞紙に包み、
ダンボール箱で送ってくださいます。
水も、 福井県の老舗の造り酒屋、久保田酒造が日本酒を作るときに使う
地下250mからくみ上げた仕込み水を、
タンクで送っていただいています。
ふだんつかっているフランソワ・ユエさんの仔鳩も、
ビュルゴー家の鴨も、これだけ毎日使っていると、
僕のなかではもはやかれらは同志です。
しかも今回は、柳生さんも、(そして僕の父も!)
まさに「僕のためだけに」二ヶ月の仔羊を、
そして輝くばかりのグジを届けてくれました。
考えてみれば、それらはまさに
「オートクチュールの」心意気です。




たぶん同じように考え、同じ価値観を持ち、同じ態度で
仕事に向かい合っている者同士は、
いつかどこかで必ず繋がるのだと思います。
僕がそれまで無意識に考えていた価値観に、
彼女は形を与えてくれました。
僕はいま、その先にあるものの手ごたえを、
感じています。
〈仕事についてのもうひとつの考え〉
この続きは、また後日、
あらためて考え、ていねいに確かめながら、
考えを書き進めてゆきたいと思っています。



いまは僕はただ彼女のための〈コース、オートクチュールのように〉の
充実感を味わっています。





(『世界でいちばんおいしごちそうって、なんだろう?』終わり)
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by le-tomo | 2008-07-23 05:29 | 世界でいちばんおいしいごちそう

世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その17

〈仕事ついての、もうひとつの考え〉、
僕は今回、そんなことを考えていました。
順を追っておはなししましょう。





実は、僕は今回この文章を書き終えるにあたって、
この日の「コース、オートクチュールのように」で
いただいた料金について、
書こうかどうしようかかなり迷いました。
ふだんの僕の流儀は、
原価のことも正直にお答えして、
喩えていえば僕の全部のカードをお客様に見せながら、
正直に仕事をするようにしています。
ですから今回も、彼女のためにお出しした、
「コース、オートクチュールに」の値段を正直に書こう、
と僕は一瞬思いました。
でも、そう思った後で、
今回、もしもここで値段を書いてしまうと、
この日、僕が味わった料理人としての幸福と、
そして彼女のすばらしい微笑みが、
ほんの少し、つまらなくなってしまうような気がして、
迷ったあげく、値段を書かないことにしました。




僕はいつもと同じように
鉄壁の原価計算をおこない、
(しかも正直に打ち明けると)だいぶ割引した
お値段をつけました、もちろん感謝の気持ちです。






実はそんなことよりも今回、
僕には、もっと大事な気づきがありました。
それが、〈仕事ついての、もうひとつの考え〉でした。
「今度ね、シェフのお任せを作ってください、
予算は関係なく」、という今回の彼女の依頼は、
彼女のいたずらっぽい遊び心であると同時に、
フランスのグラン・メゾンが、
お客様に提供し続けているサーヴィスに
どこかで通じ合っているように、
僕には思えました。
もっとも、フランスのグラン・メゾンは、
その、お客様のためだけの料理を(今回の僕のようには)、
ほとんどつくることはないでしょう、
けれども、グラン・メゾンのサーヴィスのめざすところは、
まさに、「そのお客様のための」サーヴィスであり、
そしてお客様はその「自分のためだけのサーヴィス」に対して、
代価を払います。





エルブランシュを、グランメゾンと呼ぶ人は誰もいませんし、
僕自身も、グラン・メゾンだなんて思ってはいません。
僕はただ食材の質と的確な調理法に関して、
とことんこだわっているだけです。
ただし、エルブランシュは開店当初に比べて、
どんどん高級志向をはっきりさせてきました。
現在エルブランシュは、
9,800円(税込み)と14,700円(税込み)と
あとはア・ラ・カルトです、
ちなみに同業者たちは、この設定に感心してくれる人もいれば、
心配してくれる人もいます、
ただしほんとうは心のなかで思っていることは同じです、
(コース8000円くらいで成り立つレストラン経営にすれば楽なのに、
なんでまたわざわざ好き好んで・・・)。





実は開店当初は、極上食材コース(14,700円)はまだなく、
上が10,500円で、下に二つのコース、6,300円と8,400円がありました、
でも、僕は開店半年後に、下を切って、上の(価格の)導入を決断しました。
スタッフ全員で議論したあげくの大冒険な決断でしたが、
しかし極上食材コースを導入して以降、
(当初の僕たちの心配とは裏腹に)
お客様は増え続けています。





そうなるとソムリエの弟も、いっそうマニアックに、
自分の趣味に合った、そして常連さんの顔を思い浮けばながら、
高級ワインを買うようになりました。
ワインのおいしい店としても愛されるようになりました。
なかには、「ほんとにこの値段でいんですか?」
とまでおっしゃるお客様さえいらっしゃいます。
もちろん僕はお答えします、「大丈夫です、
ちゃんと利幅は乗せてますから。」





あれからお客さんが増えてきたのも、
それまで僕のなかにあった迷いが吹っ切れ、
エルブランシュのイメージがはっきりしたからだと思います。
僕のなかには、ずっと
〈世界でいちばんおいしいごちそう〉への夢があり、
それはいつも究極の到達目標であり、僕のなかの料理の基準です、
そして今回、彼女は、僕に、
そのお客様のためだけのコース、
そう、「コース、オートクチュールのように」
という発想への扉を、
僕のために開けてくれました。




そしてそれは僕がこれまで無意識に持っていた
〈仕事ついての、もうひとつの考え〉を、
はっきり自覚させてくれるものでした。






つづく
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by le-tomo | 2008-07-22 02:22 | 世界でいちばんおいしいごちそう

世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その16

「柳生さんの育てた生後二ヶ月の乳飲み仔羊のロティ、
ジロル茸のソテーとサマートリュフの香り、
シンプルな仔羊のジュに赤ワイン風味をつけたソースで」





彼女は夢中で召し上がりました、
あっという間に、ソースまできれいに。
彼女はしばらくまっ白になったお皿を見つめていました。



そして彼女はにこやかにデザートまで食べ終え、
コーヒーの香りをたのしみながら、
おだやかな表情で、僕に言いました。
「至福の時間を、ありがとうございました。」



僕も言いました、
「こちらこそ、ありがとうございました。」



彼女もお連れ様もほほえんでいます。


彼女は訊ねました、
「今回、大変でしたか?」



僕は言いました、
「大変でした。
ふだんは設定した値段のなかでベストを尽くしてますからね、
でも今回は、まず料理を先に考えて、
値段は後からいくらでも、でしょ。
ふだんとは逆の順番、最初はとまどいました。
しかも、ーーさんはいろんなお店で召し上がってらっしゃてますから、
ただたんじゅんに高級食材を揃えてまとめるのも、
上品さに欠けるとおもって。
それで僕は、今回は、ーーさんのために作ろうって思ったんです。
そこで僕は、〈コース、オートクチュールのように〉
っていう考え方で、ーーさんのためのコースを組み立ててみました。
よろこんでくださって、僕もうれしいです。」




そして一夜は幸福に幕を閉じました。
スタッフ全員でおふたりを笑顔で見送りました。
めでたしめでたし、ハッピーエンドです。





でも、もしもここではなしを終えたならば、
僕のこのはなしは、なんだか自慢話のようになってしまいます。
(実は正直言えば、今回は、僕にも、少しだけ、
自慢話をしたい気持ちもありました。)
でも、今回こんなに何回も文章を書いて、
考えの発展する流れまで書いてきた理由は、
けっして自慢したかったからではありません。


実は、僕が今回思いがけず考えたことは、
〈仕事に対する、もうひとつの考え〉でした。





つづく
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by le-tomo | 2008-07-21 00:06 | 世界でいちばんおいしいごちそう

世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その15

彼女は、まず、食前酒にシャンパンを注文しました。
シャンパンがサーブされ、さぁ、いよいよ最初の料理です、
「愛媛産の車海老に包まれた、極上キャビア、サワークリーム添え」
彼女の目の前に料理が置かれます、
彼女は小さなフォークで、まず、半分に切り、
その半分を口に運びました。
その瞬間、彼女の目は大きく開き、
「幸せッ!」とつぶやきました。
僕は、「当たったッ!」と心のなかでよろこびながら、
手は次の料理を準備しています。





次は、「ビュルゴー家の誇るシャラン鴨のエギュイエットのカルパッチョ仕立て、
グレープフルーツのドレッシングソースのルッコラのサラダを添えて」
彼女は鴨のエギュイエットのカルパッチョに、
目を輝かせ驚きました、「おいしいッ!」
僕もよろこびます、日本でこの料理は、
今夜が初めてという可能性が高く、
だからこそ召し上がっていただきたかった、
ちゃんと受け止めてもらって、
僕もつくった甲斐があります。





ここまでくると、もう彼女の心はつかんだも同然。
次の「フォワグラのポワレ、シェリーヴィネガー・ソース」は、
僕のスペシャリテ、これまで何千回もつくってますから、
間違いはありません、
彼女もまたすでに数回召し上がっています。
ですから、ここはおたがいあらかじめ安心です。




さて、僕の父が選んだグジです。
「このソース、おいしい。
小川シェフのソースのヴァリエーション、
すごいですね、こんなソースもつくられるんですね。」
(もちろん僕はうれしいです)。






そしていよいよメインです。
「柳生さんの育てた生後二ヶ月の乳飲み仔羊のロティ、
ジロル茸のソテーとサマートリュフの香り、
シンプルな仔羊のジュに赤ワイン風味をつけたソースで」



さぁ、彼女はいったいどう受け止めるでしょうか?



つづく
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by le-tomo | 2008-07-20 02:33 | 世界でいちばんおいしいごちそう

世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その14

いよいよ、当日がやってきました。
彼女はお連れの方と一緒に、
いつものようににこやかな笑顔で、
ていねいに、まず「よろしくお願いします」
とお辞儀をしました。
スタッフは、おふたりを準備しておいたカウンター席に
ご案内しました。



僕もご挨拶です、「よろしくお願いします」、
まず、今日のコースをご説明しました。






*********






「彼女のためのフルコース、オートクチュールのように」



<アミューズ・ブーシュ>
愛媛産の車海老に包まれた、極上キャビア、サワークリーム添え



<一皿目のオードブル>
ビュルゴー家の誇るシャラン鴨のエギュイエットのカルパッチョ仕立て、
グレープフルーツのドレッシングソースのルッコラのサラダを添えて



<二皿目のオードブル>
スペシャリテ、
フレッシュフォワグラのポワレ、シェリーヴィネガーソース、
苺のソテーと共に



<魚料理>
ウロコとともにポワレした越前産グジ、
野菜のミジョテ、そのジュとバジルのピストーソース





<肉料理>
柳生さんの育てた生後二ヶ月の乳飲み仔羊のロティ、
ジロル茸のソテーとサマートリュフの香り、
シンプルな仔羊のジュに赤ワイン風味をつけたソースで



<アヴァン・デセール>
定番、
アールグレイのクレーム・ブュルレ




<グランデセール>
ココナッツのジュレとパイナップルのソルベ、
熱々のパイナップルのソテーをかけて





僕の説明を、おふたりは聞いておられます、
彼女の目の輝きには、彼女の好奇心と、
きょうの日への情熱が感じられます。
僕も、手ごたえを感じます。




つづく
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by le-tomo | 2008-07-19 04:58 | 世界でいちばんおいしいごちそう

世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その13

さて、こうして今回のフルコースのメニューはほぼ決まりました。
彼女のためのコース、そう、オート・クチュールのような。
僕はあらためてフルコースを構成する料理を
順番にイメージしながら、
彼女を思い浮かべていました。




いつだったか彼女は、
僕の酸味の利いたバターソースを褒めてくれたことがあります。
でも、僕はあえて、今回は酸味をきかせないソースをつくることにしました。
それは、次にお出しする、
メイン料理の生後二ヶ月の乳飲み仔羊の繊細さを、
最大限活かすために。



そのために、野菜を煮込んだときの、ほのかに甘い、
野菜のジュ(ジュース、旨み)をベースに、
バジルの華やかな香りをそえた、二種類のソースをあわせることを考えました。
でも、これだけでは、彼女の舌はものたりないと感じるでしょう。
(彼女の性格は、はっきりしています。
好きなものは好き、ピンとこないものはだめ、
したがって僕はここで、あいまいな味を持って来るべきではありません。)
かといって、今回は、酸味にたよった味の輪郭のつけ方は、禁物です。
なぜなら、次にくるメインの生後二ヶ月の仔羊は、
ミルクっぽさのある、この上なく繊細な肉質なはず、
したがってその前の料理で、酸味をもってくると、
せっかくのメインを召し上がるときの舌に、
酸味が残ってしまい、超極上仔羊のせっかくの魅力を
存分に活かせなくなってしまいます。




では、どうやって魚料理の味の輪郭を出そう、
酸味を使わずに。
そのとき僕は思い出しました、
父に教わった、グジの焼き方を。
グジはウロコが柔らかいため、
日本料理ではウロコをつけたまま焼くそうです。
食感の対比が生まれます。
柔らかく、ふっくらしている身のグジを、
ウロコごと焼けば、外側はパリパリして、
内側は、なんともふっくら柔らかい、
そんな食感の対比が生まれます。


これです!



この食感の対比こそ、味をはっきりさせるために効果的です。
彼女はやわらかく優しい心を持ち、
それでいてしっかりした考えをもった強さをそなえ、
会社でも活躍し、お友達も多い、
そんな彼女をイメージして、
僕はほのかに甘い野菜を煮込んだジュと、
香りの良いピストーソース、
そして、表面をパリパリに焼いた、ふっくらと、
やわらかく優しいグジの料理。




そして僕の構想はすべて決まりました。
彼女が訪れる日は、もう明日です。





つづく
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by le-tomo | 2008-07-18 05:14 | 世界でいちばんおいしいごちそう

世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その12

僕の父は、(いまはもう引退しましたが、その頃)
日本料理の板前でした。
かつて二十歳の頃、僕があまりの修行の辛さに
弱音を吐いて、夜逃げするしかない、と思ったとき、
せめて父親にだけは報告しておこうと
(叱られるのを覚悟で)電話をしたとき、
父は、おもいのほかあっさりこう言いました、
「そうか、嫌になったか。
戻っておいで。その代わり、智寛、
もう二度と包丁は持つなよ。」



「もう二度と包丁は持つなよ」
父のその言葉は、
僕の甘い考えをぶち壊し、
僕の人生の退路を断ちました。
けっきょく僕は夜逃げを辞め、
修行を続け、いま思えば、
あのとき辞めずに修行を続けたからこそ、
今日の僕があるわけです。
逆にもしもあのとき僕が夜逃げをしていたら、
いまごろ僕はなにをしていたかまったくわかりません。




そこで僕は、今回、父に魚を選んでもらうことにしました。
父の魚選びは確かです、目利きです。
僕は父に電話をしました、
父の選んだ魚で、料理を作ろうと思って。
僕が電話をすると父はこころよく息子の頼みを聞き入れてくれ、
翌日発泡スチロールに入った、
とびっきりピカピカの輝くようなグジ(甘鯛)が、
エルブランシュに届きました。
(福井では甘鯛のことをグジと呼び、
京都の高級料亭に卸されるような高級魚です)。
身は柔らかく、繊細で、ていねいに焼きあげると
ふっくらふくらみます。
グジと一緒に、母の書いた短い手紙も入っていました。
「お父さんが朝早く、市場に行って買ってきたグジです。
体に気をつけてください。」


つづく
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by le-tomo | 2008-07-17 05:49 | 世界でいちばんおいしいごちそう

世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その11

電話を切った後、僕は興奮していました。
彼女の笑顔が浮かびました。
でも、まだ安心してはいけません。
さぁ、ここの生後二ヶ月の、乳飲み仔羊をどう調理するか?
どんな、ソースをあわせるか?
彼女にはちょっと魔性的な魅力があります、
(今回彼女が持ちかけた、値段はいくらでもいいですから、
僕の思うがままに料理を作ってください、というゲームも、
そんな彼女の魔性のたまものです)。
そこで僕は、フランスの、ソローニュの森でとれた野生のジロル茸と、
サマートリュフの香りで表現することのに決めました。
そして、シンプルにこの食材の力を最大限引き出すために、
調理法は、僕のもっとも得意とするロティ(ロースト)に決まりです。

まだまだ、メニューは決まっていません。
オードブルは? 魚料理は? デザートは?
当日まで、あと一週間ちょっとです。








実は、二皿目のオードブルは、
彼女の希望で、
僕のスペシャリテ、「フォワグラのポワレ、シェリーヴィネガーソース」に
決まっていました。
彼女は、これだけは外せませんから、
と(うれしいことを)言ってくれました。
「フォワグラのポワレ、シェリーヴィネガーソース」は
僕のスペシャリテです。





アミューズ・ブーシュも手は抜けません。
ボルドーで獲れた極上キャビアを仕入れました。
このキャビアの凝縮されたような旨味と塩分を、
甘みのある大きな車海老の身で包み込み、サワークリームで酸味をあたえ、
バランスをととのえていきます。
そしてそれが今回彼女が召し上がる最初の一口に・・・。
すべてのバランスを均等に考え、
さらにインパクトのある味に仕上げました。
最初、噛んだ瞬間にはキャビアの塩分を感じますが、
噛んでいるうちに、その塩分を、酸味と甘みが包み込み、
飲み込むころには、絶妙なバランスでひとつの味にまとまる、
そんな、一口料理です。



デザートは、デザート担当の奥村と相談しました。
なんといっても最後の料理です。
それまでのすべての料理をしめくくる、〈なにか〉が必要です。
けっきょく、パイナップルを選びました。
温度差を楽しんでもらうレシピを考えました、
冷たいパイナップルのソルベに、
熱々のパイナップルのソテーをかけ、
酸味を和らげるためにココナッツのジュレを添える。
オーソドックスでありながら、
ちょっと現代的なセンスの、ウィットのあるデザートです。




次に考えたのは、一皿目のオードブルです。


悩みました。
魚介を使おうか、野菜中心にしようか、はたまた思い切って肉を使おうか。
次がフォワ・グラですから、
魚介を使ったオードブルか、野菜がメインのオードブルを考えるのがふつうは自然です。
でも、僕はあえて肉を選ぼうとおもいました。
僕の愛してやまないビュルゴー家のシャラン鴨の
エギュイエット(ささみ)を、使ってみることにしました。




僕がフランスで最初に修行した、プロヴァンスにある古いオーベルジュには、
鴨のエギュイエットをカルパッチョにした料理がありました。
僕は驚きました、なぜなら鴨のエギュイエットのカルパッチョなんて、
日本で見たことも聞いたこともありませんでしたから。
この料理は、おもしろい!
僕はすぐに好きになったものです。
そうだ、あれをつくろう。
今回はちょっとアレンジを加え、
(もともとはサヴォラマスタードをベースにしたソースを併せた料理でしたが)、
僕はグレープフルーツを使ったドレッシングをつくって、
さわやかに、サラダ仕立てに仕上げることにしました。
グレープフルーツのさわやかな苦味が、口の中いっぱいにひろがって、
食欲が進むに違いありません。


彼女はいろんな料理を食べ歩き召し上がっていますが、
この料理ははじめてに違いないと踏みました、
彼女の驚く顔が目に浮かびます。
最後は魚料理です。
今回の魚の目利きは父親に選んでもらおうと決めました。




つづく
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by le-tomo | 2008-07-16 03:31 | 世界でいちばんおいしいごちそう

世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その10

僕が最高の食材を求めて出会った柳生さんの仔羊に、
彼女は、もちろんおいしさも重要ながら、
柳生さんというひとりの人間の、
工夫と努力とそしてその柳生さんの世界に
惹かれ、支持し、だからこそ、
「わたし、北海道に行くときは、
ぜったい柳生さんに会いに行きます」
とおっしゃるのだと思います。
僕も彼女の言葉によって、
いつしか柳生さんの世界を『大草原の小さな家』のような
人間ドラマとして感じるようになりました。





そうだ、彼女にもう一度あの仔羊を食べてもらおう。
そして今回は、僕のイメージする彼女のために、
あの仔羊を最高の料理にしよう。
僕は、翌日、業者に電話をしました。
事情を話し、仔羊を送ってもらえるようお願いしました。
担当者は、
「分かりました、お返事は明日まで待ってください、
でも、小川シェフの頼みです、できるだけなんとかしましょう。」
(柳生さんの仔羊はまだまだ生産量が少なく、
いつでも必ず手に入るわけではありません)。




返事は翌日、なんとか入手できるといいのですが、
しかしまだ確実ではありません、
もしも、だめならば、次の選択を考えなくてはいけないけれど、
もはや僕には代案は思い浮かびません。
もはや僕には、今回のメインは、
柳生さんの仔羊以外は
なにも考えられなくなっていました。
僕はただ、業者からの連絡を待ちました。



お昼過ぎに、僕の携帯に電話がありました。
「小川シェフ、昨日いただいた仔羊の注文の件、大丈夫です。
でも、前回と同じものではありません。」
「えっ! どうちがうんですか?」
僕のよろこびは、瞬時に不安に変わりました、
僕が急な無理なお願いしたため、
もしかしたら最良のものが手に入らないのだろうか。
それではなんの意味もありません、
今回の注文は白紙に戻すだけです。
しかし、担当者は、そんな僕の心の動きを見透かすように、
少し興奮気味に、話を続けます、
「柳生さんがですね、今回、
生後二ヶ月の仔羊を一頭だけ出荷してくれるって言ってます。
どうです、小川シェフ、完全な、乳飲み仔羊ですよ!
ただし少々値は張りますけど。小川シェフ、どうします?」



もちろん僕は即答しました。
「もちろん、買います。(僕が買わないわけがありません)。
いつ納品できますか?」




つづく
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by le-tomo | 2008-07-15 04:43 | 世界でいちばんおいしいごちそう

世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その9

僕は、まずメインになる料理を考えることにしました。
最初は考えました、
彼女の食べたことのない食材がいい、
仔牛もいい、ほろほろ鳥もまだ食べてもらってない、
そうそう、あの鶉も最高。
でも、いろいろ考えたものの、
決定的な確信は生まれませんでした。





彼女はレストランゴアで、
一流のレストランで、一流のものをいろいろ召し上がっています。
彼女の笑顔と感動のためには、
もちろん一流の食材でなくてはなりません。
そこは大丈夫です、僕は一流の食材を仕入れるルートは
しっかりともっていますから。
そう、どんな一流レストランとも渡り合える、極上食材のルートを。
ただし、(これはいつも言えることですが)
単に極上食材を仕入れるだけでは弱い。
今回は、ほかでもない「彼女のために」、
彼女を喜ばせるための調理法、ソース、
そう、僕が彼女のことを思い描きながら料理をイメージすること、
ここが今回のゲームの最大のおもしろさです。





なにかきっと決め手があるはず。
僕は答えのでない宙ぶらりんの状態のなかで、
考え続けました。実はそれもけっこう快感です、
いつか必ず答えは出るものですから。







彼女は、この予約当日までのあいだ、
ことあるごとにふらりとうちへ通ってくれました。
彼女はワインを片手に、お友達とおしゃべりを楽しみます、
なにげない彼女の言葉を、
僕は調理をしながら聞いています、
なにかヒントがないだろうか、と思いながら。
僕はいつしか自分が〈価値観について〉考えていることに気がつきました。
そう、このゲームは、
いうものように〈自分の価値観〉のなかで最高の料理を
お客様に差し出すのではなく、
むしろ〈自分の価値観〉に叶い、なおかつ〈彼女の価値観〉にも叶った、
おたがいにとって最高の料理を考え出すことにあるのですから。




僕の価値観は、
最高の食材、食材のおいしさを最大限に引き出す的確な加熱、
ソースの魅力を活かした味のバランス、
すっきりしていてなおかつ魅力あるレシピ、
そしてそれを実現し続けるために、
原価計算を正確におこない、またさまざまな人間関係も、
良好に保っています。
たとえば僕がビュルゴー家のシャラン鴨や、
フランソワ・ユエさんのラカン鳩や、
柳生さんの仔羊を高額で買い続けるのは、
僕からかれらへの感動であり、
支持投票であり、すなわち僕の価値観の表明なんです。






では、彼女はこの世界のなにによろこび、
なにを大事にし、愛し、
逆にどんなものを軽蔑しているでしょうか?
エルブランシュのどこを支持し、
どんなところをよろこんでくれているでしょうか?





ふと彼女が話した会話が耳に残りました。
「このあいだいただいた柳生さんの仔羊、
もうおいしすぎて、感動しました。
わたし、北海道に行くときは、
ぜったい柳生さんに会いに行きます。」



(実は、柳生さんは北海道の美深町で、
牧場経営のほかに、
ゲストハウスも運営してらして、
彼女はそれもネットで検索してご存知なんです。)



そういえば僕は思い出しました、
彼女が、柳生さんの生後四ヶ月の仔羊を食べてたときのことを。
彼女は、無心でその仔羊を食べ、こう言ってくれました。
「おいしい! すごくおいしい!
わたしも柳生さんの育てた仔羊を応援します。」


「おいしい」という言葉ももちろんうれしかったです、
でもそれ以上に僕をよろこばせたのは、
「わたしも柳生さんの育てた仔羊を応援します」という言葉でした。




つづく
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by le-tomo | 2008-07-14 12:55 | 世界でいちばんおいしいごちそう
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by le-tomo
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