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料理人の休日

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ロティの星 (その8)

僕のロティ(ロースト)技術は、
こうして、フランスの星つきのレストラン、
ブルターニュのオーベルジュ・グランメゾンや、
アルザスのランスブルグ、
そして、カンヌのル・ムーラン・ド・ムージャンで認められ、
僕も料理人としての自信をもつことができました。




鴨や仔羊肉は、きれいなロゼ色に、
鶏肉や豚肉は、しっとりと。
今では、意識しなくても頭の中で、
肉の中の肉汁が円を描くように対流して、少しづつ中心に熱を運び、
おいしく焼けていく様子をイメージできるようになりました。



しかしその後も僕のロティの追求はずっと続いています、
もちろん帰国して東京のフレンチレストランの料理長になってからも、
僕は自分のロティを追い求めました。
ロティを追求しつづければ、
未知の料理の可能性がいくらでも拓けるのではないか。
僕はそう信じて努力を続けました。




そんなある日、生まれたのが、
僕のスペシャリテ
「フォワグラのポワレ、シェリーヴィネガーソース」です。


僕のこの一品は、ふつうならば堅めのフロマージュのようなフォアグラを
円を描く肉汁の対流をイメージし、
ふたつの温度をつかいわけて加熱し、
ベンチタイムを挟むことで、
外側の輪郭だけを残し、プリンのように
ぷるんぷるんに仕上げます。
この料理は(小品ですから)ポワレと呼んではいますが、
じっさいにはオーヴンを使いますし、
僕のイメージは、実は、ロティです。




この焼き方にいたるまで、
僕は何百回もフォワグラを焼きました。
そして、同じだけ失敗しました。
ちょっとでも火加減を間違えると、脂がどんどん溶け出し、
輪郭はくずれ、小さくしぼんだようになってしまいます。
ちょっとでも長くオーヴンに入れすぎると、
がちがちに固まって、食べるとパサパサです。
それでもなお、僕は、僕の理想を信じ、
今までのフォワグラの焼き方を捨て、
フォワグラを焼き続けました。
なぜなら、僕は、今までの経験で、
この料理の完成を確信していました。
僕の理想のフォワグラのポワレはきっと出来ると。
フレッシュのフォワグラを、
普通より、かなり分厚く切って、
小麦粉はつけずに、塩、胡椒だけし、
外側の輪郭だけをぎりぎりで残して、
中はプリンのように ぷるんぷるんに仕上げる、
それが、僕の理想のフォワグラの焼き方、ロティ。





おもえばフォアグラこそはまさに、
ロティを尊び、ロティを愛する料理人のための
食材にほかなりません。
なぜなら、なんとも繊細な食材で、
なにしろフォアグラはデリケートで扱いにくく、
加熱すると、どんどん脂が溶け出してしまうので、
調理するには、充分な注意と、
完璧なロティ技術、そして明快な方針が必要ですから。





僕のスペシャリテ、
「フォワグラのポワレ、シェリーヴィネガーソース」を
ぜひ一度お召し上がりください。
きっと、今まで経験したことのない未知の世界へ、
そして創造の世界へ、あなたを導いてくれるでしょう。
また、僕にとって、この一品は、
ロティという調理法が僕に与えてくれた
さまざまな夢の結晶であり、
それと同時に僕の料理人人生の最初の八年のすべてが、
この一品に結実していると言っても、過言ではありません。




つづく
by le-tomo | 2008-10-01 11:58 | ロティの星
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エルブランシュ(麻布十番)のオーナーシェフ


by tomohi
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