~ 第96章 大盛りのマカロニグラタン ~ <僕の料理人の道>
シルヴァンは、僕を見下ろすようにいいました。
僕は、その言葉が何を意味するのか、すぐににわかりました。
うれしくて、顔の筋肉がゆるみ、すぐにはもとに戻せませんでした。
「トモ、3日後のコラボレーションには、俺たちと一緒に、
ムッシュ・ブシェのアシスタントをしてもらう。」
まさに、願ってもないチャンス。
でも、なぜ?
なぜ、僕がメンバーに選ばれたのでしょう?
なんと、あのシルヴァンが、ロジェ・ヴェルジェ氏に、
僕を推薦してくれたからのようです。
あの、外人嫌いのシルヴァンが、です。
ありえない話しですが、本当に、彼が僕を選んだんです。
彼の包丁を砥いだ恩がえしのつもりでしょうか?
「ありがとう、シルヴァン。」
僕は、緩んだ顔の筋肉を戻すことが出来ず、
ニヤニヤしながら、お礼を言いました。
「まかない、なくなるぞ、トモ。」
彼は、にやっと笑って、歩き始めました。
“あいつ、いいやつだな”
僕は、こんな調子のいいことを思いながら、
まかないのマカロニグラタンをとりに、お皿をもって並びました。
僕の前には、大男、シルヴァンが並んでいます。
本当に、大きな背中です。
もう、熱々ではなくなったマカロニグラタンと、
トマトのサラダ、ヨーグルトをとり、
僕は、彼の前に座りました。
僕はいつもより、大盛りで、マカロニグラタンをお皿に盛っていました。
「どうして、僕を選んだんだ?」
まじめな顔で、僕は聞きました。
彼は、マカロニグラタンを食べる手を止めて、こういいました。
「トモ、お前、日本では1000番目より下なんだろ?
せめて、100番目くらいにはなれよ。」
「えっ、あぁ。」
なんだか、よく分からない答えでしたが、
とりあえず、僕は、ふたりの巨匠のコラボーレーションという、
魅力的な大イベントに参加できることになりました。
ロジェ・ヴェルジェ氏が言った、
「君は幸運だ。」
とは、このことでした。
日本からきた研修生が、
こんな大事なイベントに立ち会えるなんて、
僕のような駆け出しの料理人料理人にとっては、
大きな、大きな幸運です。
あと3日、
僕はワクワクしてきました。
つづく
*この記事は、僕の修行時代のことを書いています。