世界でいちばんおいしいごちそうって、なんだろう? その1
僕は何千回この問いを考えてきたかわかりません。
料理人の道に入ったときから、そればかり考えてきました。
八年間の修行時代の終わりごろには、イメージもつかめ、
技術も身につけていました。
基本は、最高の食材をがんばって調達し、
適切な調理法に、的確な加熱をほどこすこと。
構成はシンプルに、味覚はアタックから余韻までコントロールされ、
五味のひとつだけを強調することなく、味覚と食感はほどよいバランスをそなえ、
やわらかくかぐわしい香りが漂う。
これが僕のイメージする最高においしい料理のイメージです。
オーベルジュ・オーミラドーを振り出しに、日本で五年の修行を経た後、
フランスへ渡って、各地で、星なしから三ツ星の超高級店まで、
修行できたことは幸運でした。
せっかくですから、技術の話もしましょう。
プロヴァンスでは、野菜やハーブを扱うテクニックを身につけました。
野菜は、グツグツと沸騰しているたっぷりのお湯に多めの塩を入れて茹でること。
またそれぞれの野菜を最高に甘く、美味しくするためには、
それぞれふさわしい時間が厳密にあることを体で覚えました。
ブルゴーニュのレストランでは、
野生の茸料理がスペシャリテで、
採れたての新鮮な茸をブラシで根気よく汚れをとり、
最初は弱火でじっくり余分な水分を出しながら火をいれるということを学びました。
ブルターニュのレストランには、新鮮な魚介がたくさん届きました。
魚を皮目をパリッと、身はふっくらと焼き上げるためには、
中火で、じっくり、皮の水分を出しながら焼き上げること。
そして、僕のもっとも得意とするロティ(=ロースト)は、
当時、太陽の料理人と呼ばれていたロジェ・ベルジェ・シェフから学びました。
ロティの技術的要諦については話しはじめるともうキリがないのですが、
もっとも大事なことは、オーヴンで焼きあげた後、お肉を、
ゆっくり、そぉっとルポゼ(休ませる)させること、
それによって美味しさはさらにすばらしくなる、
僕はその勘所をとことん教わりました。
そう、お肉は短い眠りのあいだに、ひときわ美味しくなるのです。
そう、僕は、フランスでの三年間の修行のなかで、
ポワレ、ソテー、セジール、ロティ、ルポゼ...
フランス料理に必要な技術はすべて学んできました。
その後、都内の八十席のフレンチレストランで、
料理長・店長を任され、六人の料理人を従え、
六年間、ウェディングに、ランチにディナーにパーティに
さまざまな経験を積みました。
最初は苦労の連続でした、
たとえフランス的には完璧であっても、日本人のお客様には
また違ったアプローチが必要なこと、
またウェディングでは、若いお嬢さんを中心に、
幅広い年齢の方においしく料理を召し上がっていただける
ことなども学びました。
そして2007年三月、念願の自分のお店、
エルブランシュをオープンさせました。
エルブランシュは、基本的に「もっとフランス的に」をモットーに
自分の目指す料理をおもう存分つくっています。
妥協は一切ありません。
と、同時に、僕はこの一年のあいだに
自分の料理観が少し変化していることに気づきました。
つづく