料理人の休日

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恩寵のようなその豚に、あなたは言葉を失うでしょう。 ~ビゴール豚~

たしかにイベリコ豚~バスク豚はすばらしくおいしい、
稠密な肉質も、高貴な脂身も。
それでもまだ「極上の豚」とためらわず呼ぶことができます。
でも、今回手に入れたビゴール豚は、
もはや豚とか猪とか牛とかそんなものではなく、
僕たちが知ってるすべての極上肉とはまったく違った、
奇跡のような肉、恩寵なんです。
僕はいつも極上食材だけを選んで使っています、
それでも今回ほど驚いたことはありません、
こんなにもすばらしい肉を、豚と呼んでいいんだろうか?


ビゴール豚もまた長い物語を持っています。
今から千年まえ、フランスとスペインをまたがる
ピレネー山脈の山頂付近に住んでいた野生の猪が、
厳しいピレネーの環境に耐えられず、山から降りてきました。
彼ら猪たちは、一方はスペイン側に、そして他方はフランス側に
長い長い道のりを、安息の地を求めて歩き続けました。
スペイン側に降りた猪は、人々に飼われ、どんぐりを与えられ、
かの有名なイベリコ豚と呼ばれるようになりました。
フランス側に降りた猪もまた人々に飼われ、こちらは
いつしかビゴール豚と呼ばれるようになりました。


イベリコ豚は、人々からどんぐりを与えられ飼育され、
ビゴール豚は、もちろん飼育されてはいるのですが、
ただし、育て主は豚たちに決して、餌を与えませんでした。
ですからビゴール豚は、自分たちで餌を探して、
緑豊かな季節には牧草や新芽を、
実り豊かな季節にはどんぐりを探し出し、食べるんです。
また飲み水にしても、喉が渇けば、
ピレネー山脈から湧く綺麗な清水まで、歩いてゆくんです。
あまりにも運動量が多いため、普通の養豚に比べ、
日々の体重の増加は半分くらいです。
肉質はたとえようもなくすばらしい、
見るからに美しい赤み、綺麗に半透明な脂肪が
ほどよく混じり、しかも食べたときの官能的なまでの美味は、
たとええようもありません。


しかし、ビゴール豚の奇跡のような美味も、
その養豚の手間に見合う値段を払う買い手がいてこそ。
なにしえろビゴール豚は、餌を与えないとは言え、
12ヶ月も育てるんです。
他方、養豚業もまた近代化し、
もっと安くしかもそこそこおいしい豚を
3ヶ月~半年、長くとも8ヶ月で育て、
売ってゆくやり方が主流になってゆき、
しかも価格も安くつけることができる。
したがって畜産家の人々がだんだんと
量産型の豚の飼育に移行していきました。
ビゴール豚はどんどん減ってゆき、
一時は三十数頭にまでなり、
この世界から消滅の危機にさらされました。


しかしどれだけ多くの養豚家たちがビゴール豚を捨てても、
それでもビゴール豚の極上の美味を
誇りにしていた養豚家たちもまた(数こそ少ないけれど)残っていて。
彼らはいまこそ立ち上がらねば、と団結し、
食肉業者、農業会議所、獣医師たちに働きかけ、
声を上げて訴えました。
そう、すばらしいビゴール豚を
美食を愛する人々に知ってもらい、
養豚家、仲買人、料理人、美食家が、
力を合わせて、このビゴール豚を、
守ってはいこうではないか!


かれらの情熱は、人の心を動かしました。
いいえ、ビゴール豚の夢のような肉質に
それだけの力があったに違いありません。
ビゴール豚は、スローフード協会から
「アーク・オブ・テイスト」「プレシーディオ」の難しい認定を受け、
食材として最高の栄誉を獲得し、
次に、世界の一流シェフたちから
絶賛の声を浴びるようになりました。
そしてビゴール豚は、危ないところで、
種の存亡の危機を逃れたのでした。



このビゴール豚を是非みなさん味わってください。
僕は、エルブランシュを愛してくださるみなさんと、
このすばらしいビゴール豚へのおもいを 、是非、共にしたいです。


小川智寛



TEL:03-5439-4338(16時以降でお願いします。)
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by le-tomo | 2008-01-26 05:49 | 僕が選んだ極上食材
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