~ 第43章 幸せを運ぶコウノトリ ~ <僕の料理人の道>
春から夏にかけて、アルザス地方は花でいっぱいになります。
アルザス地方は別名「花の街」と呼ばれています。
ここアルザス地方のシンボルは「コウノトリ」です。あっちこっちの屋根の上にコウノトリが羽を休めてじっとしています。
僕はアルザスが大好きになりました。こんなに奇麗な花に囲まれて、こんなに美味しい料理がたくさんある。なんだか幸せになる街です。
それにしても、ランスブールはかなり山の中にあります。郵便局や小さな食品店のある村の中心地まで5kmくらいの道のりを、シェフが買ってくれた自転車で休みの度に行きました。一週間分の、食料と飲み物を調達するために。
駅のあるちょっと大きな隣村、ニイデルボーンへ行くためのバス亭まで行こうものなら更に5kmの道が追加されます。バスに乗るには合計10km。往復すると20kmです。ちょっとした覚悟がいります。
途中には池があり、野鳥がのんびり浮かんでいたり、道路の脇には角の生えた茶色い牛が放し飼いになっていたり、草むらには山羊までうろうろしていたりと、人間に会うより動物に会う方が断然多いのです。
そんな道のりを晴れた日に自転車でゆったりとサイクリングするのは、結構気持ちいいものです。
バス亭の前に1件のビストロがあります。このビストロのオーナーは優しい方で、いつも僕の自転車を預かってくれていました。バス亭に着くと、僕はビストロに入り「ボンジュール、今日もお願い、ムッシュ!」と叫びます。すると「オーッ、ボンジュール!いいよ。置いてけよ。」と旦那さんが快く返事してくれました。僕は、いつものように、入り口を入って左側にあるドアを開け、ちょっと広めの部屋に自転車を置いていきました。そして、そのビストロでバスが来るのを待ったのです。これもちょっとした楽しみでした。
ビストロが休みのときは、ビストロの脇に鍵をかけて自転車を止め、隣にある木靴の工房のおじさんのところへ行って、バスが来るのを待ちました。このおじさんも生真面目そうな感じですが話すと楽しい人です。
いつの間にかバスが来る時間よりずっと前に、僕はバス停に着くようになっていました。
2人とも快く僕に付き合ってくれていました。
アルザスにはコウノトリが幸せを運んできます。
僕もアルザスの幸せを感じていました。
つづく
*この記事は、僕が修行していた時代のことを書いています。